BBM障がい者雇用 TAMATEBAKO ~障がい者雇用の未来をそだてるために~
BOX7 ベネッセビジネスメイトのビジョン・ミッション
文責 櫻田 満志
ベネッセビジネスメイトでは、これまで様々なトラブルや課題に直面したときには、社内でどう対応すべきかを議論しながら判断してきました。その根幹には「会社のめざすべき姿、自分たちがありたい姿」を示す「ビジョン・ミッション」があります。
今回は、この「ビジョン・ミッション」の変遷、そして「会社のめざすべき姿」、「売上・利益の考え方」について、私たちがどう考え、どのような思いを持って取り組んできたかをご紹介します。
①ベネッセビジネスメイトのビジョン
■ビジョン・ミッションをもとにした経営へ
ベネッセビジネスメイトでは、毎年、会社の「ビジョン・ミッション」をもとに重点方針を決め、事業計画を立案しています。
その大きな方向性は変わっていませんが、環境変化や会社の成長度合いによって、BBMへの期待や求められる役割が広がり、それに合わせて少しずつ修正してきました。
特例子会社として設立された時点のビジョンでは「障がい者雇用拡大」と「社会貢献(CSR)」が謳われ、BBMにおいて障がい者雇用を実現しながら社会貢献していくという方向性が示されていました。
その後、2010年頃からは「自立した競争力を持つ会社になる」という方針を付け加え、特例子会社であっても「業務の品質や生産性アップに取り組み、コストについても他の会社に負けない自立した会社になっていこう」というビジョンを掲げました。このビジョンにより、「私たちが品質の高い業務ができるプロフェッショナルになり、お客様に信頼されることではじめて障がい者雇用ができる」という考え方を共有しました。
そして、この方針を実現するために、業務の拡大とともに、人事制度や組織体制の整備、社員の研修、行動指針である「クレド」の設定など「基盤の整備」にも力を入れ、「会社としての自立」、「社員一人ひとりの自立」をめざしてきました。
■ベネッセグループの障がい者雇用支援部門としての役割
2012年に「ベネッセグループ障がい者雇用方針」を策定し、障がい者雇用推進体制を明確にしました。その中でBBMの役割・位置づけも明確になりました。グループ全体の障がい者雇用計画を推進していく「グループ障がい者雇用事務局」、グループ各社の障がい者雇用をサポートする「障がい者雇用支援部門」としてベネッセホールディングス(BH)から業務を受託し、自社だけでなく、グループ会社の障がい者の採用支援や管理者の研修なども行うようになりました。特に大きな母体をもつベネッセスタイルケア(介護事業)の障がい者雇用においては、現場にも足を運び、介護施設での障がい者雇用をサポートしました。また、2016年にはベネッセスタイルケアと共同出資で福祉サービス会社「ベネッセソシアス」を設立し、介護施設入居者の衣類を洗濯する洗濯センターを立ち上げました。現在は3つのセンターができ、100人以上の障がい者が働いています。
■ベネッセの事業成長を支援する役割
BBMでは、作業系の業務だけでなく、PCを使うような事務系業務も少しずつ受託するようになり、受託した業務については、「楽ジョブ」(業務のユニバーサル化や効率化)、一人ひとりの特性と業務のマッチングなどの工夫や改善を進めてきました。その成果もあり、サービスのクオリティが上がったことでお客様からの信頼度、期待度も高くなり、難易度の高いシェアードサービス業務やバックオフィス業務の依頼も増えてきました。
この段階で、障がい者雇用の会社という位置づけではなく、純粋に「ベネッセグループの事業成長を支援するシェアードサービス会社」という役割も期待されるようになったと言えます。
このような状況も踏まえ、現在のビジョン・ミッションは、自社で障がい者雇用をしていくだけでなく、「ベネッセ(グループ)の障がい者雇用を推進する」、「ベネッセ(グループ)の事業を支える」というミッションも大きな柱となっています。
■障がい者雇用の未来に貢献できる会社へ
最新のビジョンには「ベネッセグループや社会にとってなくてはならない会社になる」、ミッションには「障がい者雇用の未来を育てる」という項目がありますが、これは、今後も障がい者雇用を拡大し、レベルアップしていきたい、そして日本の障がい者雇用の発展に貢献したいという思いを「未来を育てる」ということばで表現したものです。このフレーズはベネッセビジネスメイト創立10周年(2015年)の時に作ったキャッチフレーズからとっています。
「障がい者雇用の未来を育てる」ために、まずBBMの活動内容や考え方について積極的に外部に発信することから取り組んできました。会社見学や実習の積極的な受け入れとともに、セミナーや研修講師の依頼もできる限り受けてきました。外部の方に対して社長や幹部社員から発信するとともに、現場の指導員や障がいのある社員にも話をしてもらう機会も作りました。
今読んでいただいているTAMATEBAKOの記事掲載もこの取り組みの一環です。私たちがこれまで考えてきたこと、悩みながらやってきたことを文章にして発信することで、後進に継承する役割も持っていますし、少しでもこれから障がい者雇用を進めたいと思っている方々のお役に立てればと考えています。また、記事へのご質問やご意見から新しい発見や考え方が見えてくることも多く、BBMの活動のさらなる改善や進化にもつながっています。
今後も積極的に発信し、自社の成長とともに「障がい者雇用の未来を育てること」に少しでも貢献できればと考えています。
②会社のめざすべき姿
■自分たちがどうありたいかを常に考える
BBMは設立してから十数年経ちましたが、これまでいろいろな課題にも直面してきました。それまで経験のない問題やトラブルが起こると、どう対応したらいいか、どう判断すべきか悩むことも多く、その都度社内で何度も議論しながら対応してきました。
そんな時どう考え、どう判断したかを改めて整理してみると、その判断基準は「自分たちがどんな会社でありたいか」という根幹にある考えだったように思います。以下にこれまでの考え方を整理しています。
もちろんこれからの外部環境や会社の進化によってこの判断基準は変わってくることはあると思います。ただし、「変えてはいけないこと」もしっかり見極めたうえでアップデートしていくことが必要でしょう。
■先入観にとらわれず、目の前の事実から一人ひとりを見ていく
よく「障がい者に任せられる仕事がない」、「障がい者雇用で生産性が落ちる」などの声を聞くことがあります。しかし、それは事実でしょうか。確かにそういう面があることは否定しませんが、これがすべてを表すわけではありません。障がい者の一人ひとりの特性や障がいの程度は違います。障がい特性で苦手な仕事もありますが、得意な仕事であれば健常者にも負けない戦力になる人もいます。障がい者雇用においては、障がいの種別や事前情報だけの「先入観」に左右されることなく、目の前の「その人」、そして「事実」をもとに発想・判断していくことがとても大切だと考えています。
これまでBBMで見てきた状況(事実)や経験をもとに気づいたことや押さえるべき点をまとめています。
「障がい」を見るのではなく、「人」を見る
障がい者の一人ひとりの能力やスキルは様々であり、一括りに表現することはできない。個人の特性(強み・弱み)をしっかり把握することが重要。
個人の「強み」と業務をマッチングする
障がいの特性(強み=得意分野)に合わせた業務の担当や配置を行うことで生産性も確保できる。採用するときは担当業務に合わせて障がい者を雇用する。(ジョブ型雇用)
個人のポテンシャルを見極める
障がいがあっても難易度が高い業務や専門性の高い業務ができるポテンシャルを持っている人もいる。やったことがなくて不安に思ったり、難しそうに思えても、やってみるとできる人も多い。個人の力量をしっかりと見極めることが大切。
障がいはちょっとした配慮や訓練でカバーできる
障がい特性による苦手なことや弱いところを訓練していくことで改善することもできる。また、ちょっとした配慮や工夫で弱みをカバーできる。
このように、まずはしっかり個人の仕事の状況を見ながら、特性を把握し、その上でトライ&エラーを繰り返すことでいろいろな「事実」が見えてきます。事前の情報もある程度必要ですが、目の前の事実をしっかりと確認した上で判断、対応していくことが必要です。
③BBMの売上・利益についての考え方
一般企業においては「売上・利益を追求する」ことが会社経営の前提となります。しかし、特例子会社の場合、「障がい者雇用の拡大」が最大の役割になりますが、売上・利益についてもどう考えればいいのか決めておくことが必要です。この考え方は会社によっても違うし、状況によっても変わってくるかもしれません。
BBMでは会社のビジョンとともに、この「売上・利益についての考え方」をリーダークラスで共有しています。
■「売上は障がい者雇用のための原資」
BBMでは、売上を「障がい者雇用のための原資」と定義しています。
障がい者を雇用していくためには、当然ながら業務が必要であり、その売上があってはじめて社員を雇用することができます。特例子会社として障がい者の雇用拡大をめざすのであれば、売上の拡大は必要であるという考え方になります。
BBMでは、毎年の事業計画の中で、「売上計画」と合わせて「障がい者雇用計画」を作っていくようにしています。障がい者雇用を拡大していくためには、常に現在の業務を維持した上に新しい業務の確保が必要になってきます。利益拡大につながる売上拡大もありますが、まずは障がい者を雇用するための原資としての売上拡大をめざしています。ここ数年はコロナ感染拡大の影響もあり、これまでの受託業務が減少しており、現在働いている社員の業務確保も課題となっており、さらなる障がい者雇用拡大のためにも今後の業務領域拡大は急務と言えます。
■「利益は将来に対する投資に使う」
また、利益については「会社や社員の将来に対する投資」と定義しています。
障がい者雇用を拡大していくと同時に自立した会社として成長していくためには、会社基盤の改善や強化が必要です。働きやすい職場環境、支援体制、人事制度や人材育成のしくみなどの整備など社員のモチベーションが上がり、「会社が元気になるための施策」も必要です。このような活動のための原資が「利益」だと考えています。
厳しい経済状況が続く中、これからの障がい者雇用は、「事業成長のための人材活用」「企業の価値向上」のための雇用が求められてきます。これは障がい者が「戦力」となって長く働き続け、しっかり「事業成長」に貢献している状態を作ることだと考えています。
そのためにも、基盤整備や人材育成に必要な投資を行うことが必要であり、その原資である利益を確保するために業務の効率化やコストダウンなどにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
■障がい者の雇用と収支のバランスを考えた経営
特例子会社の収支についての考え方は、それぞれの会社の方針や状況によっても異なります。安定的な雇用をするために「総括原価方式」(「売上=かかった費用」)をとっている会社もありますし、障がい者雇用のための費用の枠を決めて、その費用の中で雇用するという会社もあります。またグループ内で納付金制度を作り、その納付金を使って雇用を進めるという考え方もあります。
このように、それぞれの企業が自社の方針を決め、収支のバランスをとりながら障がい者雇用に取り組んでいます。一般企業のように売上・利益の徹底追求という方針だけでは、障がい者雇用はなかなか進みませんし、収支と障がい者雇用計画のバランスをしっかりとっていくことが求められていると言えます。
特に、ここ数年コロナウィルス感染拡大の影響や物価高騰、最低賃金アップなどの影響で厳しい経済状況が続いています。BBMでも親会社の働き方の変化やペーパーレス化の加速などにより、コピーやデリバリーなどの作業系の業務が大幅に減少するなど業績も低下しました。現在は、カフェサービスや在宅勤務支援業務、オフィスの除菌・消毒など新しい業務領域を開拓するとともに業務の効率化やITツールの活用などを進め、少しずつ回復の兆しが見えてきたところです。この苦境をしっかり乗り切って、業績を安定させ、さらなる障がい者雇用拡大を実現していきたいと考えています。