ベネッセコーポレーションで英語アセスメントの運用業務を担当する高﨑麻世は、コロナ禍で、社会課題に対してとにかくアクションを起こすことが大切と気づき、その一歩を踏み出しました。
勤務先の新宿に近い「認定NPO法人自立生活サポートセンターもやい」での生活困窮者支援と、地元である東京都稲城市の「トランジションタウンいなぎ・あさお」での活動の2つをメインに、多くの仲間と出会いながらさらなる活動の輪を広げています。
ボランティアに興味を持ちながらも、自分にできることがあるかを迷われている方、ぜひご参考いただければと思います。
「課題に対して自分がアクションしないのは、課題を生み出す人間と同じである」という考えに促されて
2020年頃、コロナによる在宅勤務で家にいる時間ができたため、高﨑はオンライン学習を始め、Pachamama Alliance(以下PA)というアメリカの団体と出会いました。
PAは環境問題の解決から始まった団体ですが、人間も地球の一部であり、持続可能で誰もが精神的に充足した公平な社会を目指すという理念で活動しています。
高﨑が当時を振り返ります。
「子育ても終わり、仕事にもなれ、自分も社会に対して何かできないかとぼんやり思っていた頃と、コロナにより社会が不安に包まれたのが同じくらいの時期だったと思います。自分でもできる何かを探して学んでいたところ、PAと出会い、社会課題を学ぶ「ゲームチェンジャー・インテンシブ」を受講しました。
思えば、PAの『誰もが精神的に充実した公平な社会を目指す』という考え方が、ベネッセの理念である『よく生きる』に通じることもあり、このコースを選んだのかもしれません。
ここで教えられたことは、『大きな活動はできなくても、一人一人が自覚を持って、自分の身の回りから一歩を踏み出すことが大事』ということです。
2020年のアメリカは『Black Lives Matter』が大きな話題であり、コースの中でも黒人差別問題を大きく取り上げていました。『私は差別してません』と言えばよいのではなく、差別をしなくても、世の中にある差別や不平等不公平を見ても何もしない、自分が何もアクションしないということは、差別をしている人と同じという考えです。
行動することの重要さは、私の心にグサッと深く刺さりました。自分の身の回りから一歩を踏み出さねば、何かしなくては!と思ったのです。」
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでの活動
現在高﨑は、「認定NPO法人自立生活サポートセンターもやい」と「トランジションタウンいなぎ・あさお」で主に活動しています。2つの団体の活動をご紹介します。
もやいは、2001年の設立以来、「日本の貧困問題を社会的に解決する」というミッションのもと活動しています。貧困を「経済的な貧困」と「つながり(人間関係)の貧困」という二つの視点でとらえ、その解決を目指す団体で、「経済的な貧困」に対しては、生活相談・支援事業と入居支援事業で生活基盤の回復を、「つながり(人間関係)の貧困」に対しては、交流事業で人とのつながりと自尊心の回復をお手伝いしています。
高﨑は、毎週土曜日に食料の配布や相談事業の手伝いをしています。
「私は新宿オフィスに勤めているので、都庁の下で困窮者の支援をしている活動があることは知っていました。いくつかの団体の活動をホームページなどで確認し、身近に感じた、もやいに参加させていただくことにしました。
ごはんやバナナを一人分ずつレジ袋に入れて配布します。配布が始まった2020年頃は、毎週100人くらいの路上生活者の方中心にお渡ししていました。ところが今は普通の学生や社会人、親子連れなど600人もの方がいらっしゃいます。昨年の秋くらいから食料品の値段が上がったことによる影響か、ぐっと増えたように思います。」
トランジションいなぎ・あさおへの参加から始まった稲城での仲間の広がり
高﨑は、もっと身近な活動もしたいと考え、2022年、自身が暮らす稲城市の団体であるトランジションいなぎ・あさおのメンバーになりました。
トランジション・タウンとは、イギリス南部の小さなまちトットネスで始まった、持続不可能な社会から持続可能な社会へ移行するための市民運動です。2008年にその考え方を支持するトランジション・ジャパンが設立され、現在は日本全国で50を超えるグループでトランジション・タウン運動が行われています。その一つが東京都稲城市と神奈川県川崎市麻生区で活動するトランジションタウンいなぎ・あさおです。
「この頃から、地域でのイベントに積極的に参加するようになりました。稲城市で行われた会が主催したマイクロプラスチックに関する映画の上映会に参加したことをきっかけです。日本各地では、農地再生やリサイクルなど環境活動に力を入れ大きな活動をされているところもありますが、私たちの団体は団体もできたばかりで、現在はでゴミ拾いや公園遊びなどをしながら、地域の様々な団体とのつながりを強くしています。
社内での勉強会で、障がい者雇用を促進するベネッセの特例子会社のベネッセソシアスの社長である山口さんのお話を聞く機会がありました。その事業センターが稲城市にあることをしり、思い切って山口さんにご連絡し、仲間と一緒に見学することも叶いました。
障がい者の雇用、若者の不登校についてなど、地域で取り組むべき課題はたくさんあります。こどもも高齢者も障がいのある方もみんなが関わりあっていける社会のために、活動していきたいと思っています。」
自分のタイミングでいいから動いてみて!
高﨑はこれまでの活動を振り返りました。
「最初の一歩を踏み出す、自分で行動するのがとても怖かったです。ところが実際動いてみると、やればやるほど相乗効果というのか縁がつながることを感じます。短い間でも、様々なめぐりあわせがありました。地域の輪だけでなく、現在の英語アセスメント運用業務でも、特別な配慮の担当となりました。弱視や難聴といった課題をお持ちの生徒さんのために工夫された資材を用意しています。実際に学校の先生とお話しする中で、発達障がい、識字障がいといった様々な課題があることも知りました。
思い切って踏み出せたのは、子育てから手が離れて自分に余裕ができたこと、コロナ禍で様々な現実をみたことなどがきっかけと思いますが、それぞれの方が自分ができるタイミングがあると思うので、そのタイミングで自分にできることをすればいいのかなと思っています。私の場合は、結婚、出産、子育て、と特に考えることなく歳を重ねてきて、生きるイコール日々の家事や仕事、というイメージでしたが、ベネッセで働くうちにじわじわと自分の中で『よく生きる』が育まれ、外に出てきたのかもしれません。人生50年時代は、大人になって子育てをしたらそれで完了、でしたが、今や人生100年と言われています。ボランティアである必要はありませんが、仕事以外の視野を広げることも大事ですね。」
お子さんが大きくなってから稲城市に住み始めた高﨑さんは、自然とママ友ができるということはなく、市内の方と親しくなるきっかけもなかったといいます。この活動を始めてから、民生委員、こどもに関わる活動をされている方、市会議員...と、市内に知り合いが急激に増えたことは思ってもみなかった驚きだそうです。知り合いの知り合いがベネッセ社員、ということもありました。市内在住の音楽家、絵本作家といった多彩な方々とも知り合いになっています。
昨年はNPO法人インクルーシブ・フォレストという市内の団体と共催で、公園遊びのイベントを行いました。イベントにはベネッセソシアスの山口さんも来てくれました。今年は市内で科学教室を開いている方と、ゴールデンウィークにおまつりを開催します。こどもたちが自分で考えて作り上げる体験ができるおまつりです。イベントの準備で仲間の輪がさらに広がり、サークル活動のように盛り上がっています。近隣の地域の先行例を参考にしながら、地域に即した活動をしようと模索しているところです。
「たくさんの人とのやり取りをするのは、純粋に楽しいのですよ!」と素晴らしい笑顔でインタビューを終えました。
- 高﨑 麻世
- 大学卒業後、ほぼ専業主婦として子育てをした後、2010年より派遣社員としてベネッセの英語編集にかかわる。2021年に社員となり、現在は英語アセスメントの運用業務担当。英語は自己流というが英検準1級、TOEIC970点で、旅行英語程度ならコミュニケーションには困らない。