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学校・教育から スペシャルニーズを持つ子どもたちの学びを支える高校選び 第2回

定時制高校と同様に、働きながら勉強を続けたい人たちを受け入れてきた通信制高校ですが、近年は、発達障害がある子どもの学びの場としての重要な役割を担うようになっています。発達障害がある子どもを「スペシャルニーズを持つ子ども」ととらえ、その学びの支援に力を注ぐ通信制高校・明蓬館高等学校の学校長・理事長である日野公三さんに、通信制高校という場について、そしてそこでの子どもたちの学びの様子についてうかがいました。

 

日野公三さん
内閣府認定特区明蓬館高等学校 学校長・理事長 ひの こうぞう 日野公三さん →プロフィール
通信制高校には、発達障害がある子どもたちが多く学んでいるのですか?
教育の世界では「不登校の陰には発達障害あり」という言葉がよく聞かれるようになりました。実際、発達障害がある子どもたちの中には、中学校まではなんとか通えたけれど、高校になって不登校になるというケースは少なくありません。一斉授業で、短時間で効率的に問題を解いていく能力に重きを置いた教育を行う全日制高校では、発達障害の子どもはどうしても苦労しがちです。

中学校から高校に進学する段階で、「自分は高校でやっていけるだろうか」と不安に思っている子ども、保護者は実は少なくありません。しかし、保護者世代にとって通信制高校は一般的ではありませんし、子どもにとっても同級生と違うタイプの高校には行くのには抵抗があります。結果、全日制高校をやめてから初めて進学先として通信制高校を検討するケースが多くなっています。今では、通信制高校に通う生徒の15%程度が発達障害がある子どもだと考えられています。
通信制高校については、まだまだよく理解されていない部分もありますね。
通信制高校については、まだまだよく理解されていない部分もありますね。" 保護者や子どもたちの中に、通信制高校に対する誤解があるのは事実です。例えば、通信制イコール自学自習と勘違いしている人は少なくありませんが、実際には時間割は決まっています。明蓬館高等学校SNECの場合、どんなペースで登校し、どんな時間割で学ぶかを、生徒が担任の先生や支援員と相談して計画を立て、さらに臨床心理士も加わって本人と相談しながら、一人ひとりのニーズに合った個別教育支援計画(IEP)を作成します。

また、集団行動が苦手な生徒は多いので、本校でも一人で落ち着いて学習できる個室スペースも設けていますが、だからといって学校でずっと他者とコミュニケーションをしないわけではありません。そもそも、コミュニケーションで苦労してきた子どもであったからこそ、言葉づかいや人との接し方に対して関心を持っている生徒が多いのも事実です。状況によって他人がどんな気持ちで、自分はどんなふうに振る舞うとよいのかを考えるカードゲームなどを取り入れた授業にも生徒は積極的に参加しています。先日は、季節やその場の雰囲気に合った服装について、生徒が話し合いました。「いつから長袖を着るのか、どのようにして決めるとよいか」など、それぞれの体験を語りながら、社会参加するにあたって求められるスキルを身につけています。さらに、教科学習の中では、同じ学力層の生徒を取り出して、話し合いを通して学ぶ場面もあります。ただ、そうした活動を行う前提として、臨床心理士が生徒一人ひとりの特性を科学的に捉え、教師や支援員に対して子どもに接する際の配慮、向いている教材や教え方について共有しておくことが不可欠です。
通信制高校の校長として生徒たちをどのように見て、感じているか、保護者と共にどのように支援していきたいと考えているか、教えてください。
通信制高校の校長として生徒たちをどのように見て、感じているか、保護者と共にどのように支援していきたいと考えているか、教えてください。" 発達障害がある子どもは、おとなたちの「やればできる」という言葉に苦しめられてきました。もちろん「やればできる」こともあるでしょうが、その子の特性を理解しないままハードルを上げられてしまい、結果、周囲から「努力が足りない」と非難され、自分自身も親や教師の期待にこたえられないことで自己否定してしまいます。そもそも思春期を迎える子どもの自己肯定感は低下しがちです。発達障害がある子どもに対しては、とくに慎重に、その子にふさわしいスモールステップを設定していくことが重要です。

発達特性に合った学習環境を整えることで、大きく成長する子は少なくありません。例えば、板書の内容を記憶し、ノートに書き起こしたりする力に課題があり、中学校から不登校になったAくんは、本校ではICTを活用して勉強していますが、彼は科学についての知識、洞察力に見事なものを持っており、今は日本有数の難関大学をめざして頑張っています。

全日制高校という一般的な道から外れることに、保護者が戸惑いや不安を抱くことは理解はできます。しかし、多数が適応している学びの環境から外れたからといって、学びそのものからドロップアウトしたと考えるのは間違っています。単にそれは、ドロップアウトではなく、スピンアウトにすぎないと私は思うのです。大勢の人が選ぶ道ではなく、人とは違った道を歩いているだけで、自分に合った道を選び、自分のめざす方向に向かって立派に進んでいるのですから。アメリカでは、「学習障害(LD)」を表す言葉は、以前は「Learning Disorder」や「Learning Disability」など、「障害」を示す言葉が使われていました。しかし、いまは「Learning Differences」という言葉が一般的になり、学び方の「違い」であるという認識は広まりつつあります。発達障害がある子どもは、スペシャルニーズを持っているという面ではほかの子どもと少し違うけれども、大きな可能性をもったかけがえのない存在であるという点では変わりはないのです。