公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2021活動報告|支援における「経験知」の見える化事業

特定非営利活動法人 TEDIC

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2年目の助成期間を終え、支援における「経験知」の見える化事業についてご報告いただきました。

事業の詳細などは以下からご覧ください。

事業紹介|地域社会資源の定性情報の可視化を実現するために>

【助成先訪問】TEDIC事務所と新たな子ども支援拠点を訪問しました




支援における「経験知」の見える化事業の2年目の活動概要 「子どもファイル」作成について 支援サポートシステムの構築について 個別伴走支援者養成研修について ブルーチューター(コーディネーター)養成研修について 地域のNPOリーダーによるメンター制度について 1年間総括 次年度にむけて

支援における「経験知」の見える化事業の2年目の活動概要

1年目は、支援における暗黙知(値)が価値・バリューとして整理、分析、可視化されている状態、地域社会資源の定性情報が可視化された状態を目指しました。
過去9年間の支援の記録、活動の記録、ボランティアの記録、関係者情報などを棚卸し、整理・分析に取り組んだ結果、過去の「価値」を可視化することができました。

しかし、「支援のプロセス」や「地域社会資源へのつなぎ方プロセス」のブラックボックス化という課題は継続していました。
申請事業名にある通り、当初の問題意識は『支援における「経験知」の見える化』であり、「支援は見えない」という暗黙の前提があったように思います。

1年目の取り組みを通して、支援が「見えない」のはTEDICによる支援のほとんどが単独で行われ、共有する意識、チームとして支援力を上げるという意識が希薄だったからであり、また、現在の相談責任者がひとりで80ケースも担当しなくてはならない、持続不可能な支援環境だったからではないか、という仮説を立てました。
単独支援がゆえにプロセスが見えづらく、さらに新型コロナウイルスの影響により、社内研修や報告会の機会なども減ってしまい、ブラックボックス化が進んでいきました。

2年目は、支援プロセスが可視化され、チームで支援プロセスを参考にできる状態を目指しました。
過去の支援分析レポートを検討したり、支援サポートシステム(Notion)を構築することで、支援における価値の可視化に取り組みました。
また大学生インターンの雇用や日常業務の改善、メンター制度の導入や研修を通し、「単独支援」から「チーム支援」に移行し、経験知や共有知が蓄積されやすい支援環境を構築することで課題解決を試みました。

「子どもファイル」作成について

子どもの情報や支援プロセスをSalesforceにデータベース化したことで、外部への報告はしやすくなりました。
しかし、子どもの情報や支援プロセスは見えづらくなり、チームで支援プロセスの共有がしづらくなりました。そのため、TEDICの子どもの支援活動で関わっている、子ども90名分の個別ファイル(「子どもファイル」)を作成しました。

「子どもファイル」の中身は、アセスメントシートや支援計画、活動計画、学習教材等。事業の仕様書や生活困窮者自立支援法に関する資料等も併せてファイリングし、内部会議や子どもの情報共有、ケース会議などで実際に使う場面を想定した構成を意識しました。

内部共有可能なものは印刷・ファイリングすることで、いつでも閲覧可能な状態にし、「支援プロセスが共有されづらい」という課題の解決を図りました。
結果、担当者が学校や児童相談所でのケース会議等で関係機関との円滑な情報交換を行うことができ、子どもに必要な支援方針の策定に役立ちました。
また、データベース上に残していなかった、特定の支援者の脳内にある子どもの支援に関する計画や情報を子どもファイルを通して共有することができ、「チーム支援」を促進する礎となりました。

作成した「子どもファイル」:2年目の取り組みで作成した「子どもファイル」。子ども1人につき1冊、合計90冊作成しました。

支援サポートシステムの構築について

これまで属人的になってしまっていた支援プロセスを、ツール(Notion)の力を借りて可視化する取り組みを行いました。

子どもリスト(支援・活動計画の管理)、子どもの居場所の運営管理、ボランティアコーディネート、各種タスク管理の機能を実装しました。また、Notionの構築過程で現場スタッフに業務のヒアリングを行った結果、業務の可視化・一般化が進みました。
また、これまで一部のスタッフだけが行っていた他機関連携も、関係機関データベースなどを構築し整理しました。さらに、相談会も継続して実施し、使いにくさなどのヒアリングをし、現場スタッフが活用しやすいように微修正をしました。

内部会議や子どもの情報共有、ケース会議などで、まずは子どもリストを活用して、直接その子どもと関わっていない支援者と子どもの状況の共通認識を作ることで、支援の今後の方向性や緊急性などを話しやすくなりました。「子どもファイル」同様、「チーム支援」を促進する基盤のひとつになりました。

個別伴走支援者養成研修について

1年目に、TEDICの基盤は個別伴走支援であることが明らかになりましたが、2019年、2020年と定期的な人材養成研修が行えていない状況が続いていました。そのため2021年度には、スタッフ・ボランティアを対象に、個別伴走支援者養成研修を実施しました。

京都ユースサービス協会の竹久氏(TEDIC理事)に講師を依頼し、8月、9月にオンラインで実施しました。大学生ボランティアや支援職の学生などが中心となって研修設計を行いました。講師に研修の設計を一任するのではなく、現場担当が内容を一緒に設計することで、現場のニーズにより近い形で実施することができたとともに、研修の設計を経験すること自体も学びになりました。

2月20日と21日には、2日間にかけて3回目の研修を実施しました。TEDICの理念や価値を現場に落とし込んでいくために、各スタッフがTEDICの理念・価値・姿勢について体感、共有できる機会を作りました。価値・姿勢の交換を行う中で、各スタッフの支援観を深める機会にも繋がり、また、何の価値に基づいて支援を行っているかを認識する機会になりました。

個別伴走支援者養成研修の様子。各スタッフがTEDICの理念・価値・姿勢について体感、共有できる機会になりました。

ブルーチューター(コーディネーター)養成研修

ブルーチューター(コーディネーター)研修では、利用申込、支援計画、活動計画、ボランティアコーディネート、関係機関連携業務等の習得を目標に4回の座学研修とOJTで構成しました。
座学研修のテーマは「オリエンテーション」、「事前準備」、「関係機関連携」、「振り返り」。
OJTでは、座学研修で学んだ内容を、相談責任者と同行して実施しました。
ブルーチューター研修を行ったことで、2021年度に新設された「ブルーチューター」という職種の業務内容が言語化され、研修を受けたスタッフの業務理解が進みました。実践から個々に学んできたTEDICにとって、研修という文化が生まれたことは、組織にとって大きい価値です。

ブルーチューターの養成が進んだ結果、これまで相談責任者が多い時では80ケースを担当していた状況は大幅に改善し、1人当たり平均20ケース程度まで担当を均等化することができました。
研修を行う中で、業務を一般化していくには、研修と実践、振り返りを繰り返すサイクルを継続的に行う必要があることに気づきました。また、相談責任者が研修を行ったことで、自身の立ち位置の変化を認識することができ、現場を育てなければという意識変革にも繋がりました。さらに、研修を行う中で、期待することと実際にスタッフができることとのギャップがあることがわかり、研修の必要性をますます感じました。

一方で、業務の範囲が多岐にわたっているため、スタッフの特性やスキル、経験などが業務の質やできる範囲に影響されやすいことも見えてきました。見えてきた課題をもとに、スタッフやチームの状況、組織の状況に合わせて研修内容を整理し、引き続き行っていく必要があると感じています。

地域のNPOリーダーによるメンター制度について

TEDIC内でマネージャー人材が不足している課題はずっと感じていましたが、内部にマネージャーや育成担当を置くだけではなく、地域内の人材の力を借りることにより、地域で若手スタッフが育つ環境を醸成することが必要だと考えました。

石巻市内で活動するNPOリーダー(プレーワーカーズ廣川氏、かぎかっこプロジェクト神澤氏)に、メンターとしてTEDICに参画してもらいました。

週1回、昼間に開催しているフリースクールの運営等に入ってもらい、事前から現場の活動、事後振り返りまでを若手スタッフと一緒に行い、OJTを行っていただきました。
若手スタッフとLINEグループを作り、日常的に現場での悩みの相談相手になり、関係性を育んでくれました。
その結果、IKEA&長町モールへのおでかけ企画や段ボールガチャガチャづくりなど、今までになかった取り組みを行うことができました。
結果、若手スタッフの自信にも繋がりました。地域で若手スタッフが育つ環境を醸成する取り組みは、2022年度も続けていきます。

かぎかっこプロジェクト神澤氏が、活動の中で子どもや若者と一緒に段ボールガチャガチャづくりに取り組んでいる様子。

1年間の総括

2021年度は、子どもファイルの作成やNotion構築を通して、支援体制の基盤作りを実施したり、支援者研修に取り組んだりしました。

子ども支援の情報は、デジタルツールと紙媒体を併用することで、スタッフが使用しやすい形を模索することができました。また、理事やご縁のある方のお力添えをいただき、スタッフやボランティアへの研修をすることができました。その結果、基盤作りを通して、メンバーの情報へのアクセスが進みました。また、研修を通して、チームメンバーを意識することに繋がり、チームで支援することを進めることができました。

一方、課題も浮き彫りになったと考えています。項目毎の取組は一定進めることができましたが、内部の体制が不十分で取組同士の連携が不十分となり、チーム支援を後押しするために効率よく前へ進むことができたとは言えません。

2年目で出たこの課題を基に、3年目では、本助成での取組を内部プロジェクトに位置付け、体制強化と役割分担を行った上で、2年目の項目を継続して取り組んでいきたいと思っています。その結果、本助成後もTEDICに関わる人がチームとなり、子ども達へ支援できる環境を作っていきます。

次年度に向けて

1年目から2年目にかけて、「支援プロセスのブラックボックス化」の解決を目指してきました。3年目も継続して、支援プロセス及び支援における価値観のオープン化を行っていきます。3年間の集大成として、団体設立者や代表など支援の中心を担ってきた者たちのノウハウやナレッジが可視化され、職員やボランティアの人たちが手に取って学ぶことができる状態を目指します。

また、2021度の支援者向け研修の効果が高かったため、今年度も継続して職員育成を行っていきます。対人支援はスタッフの精神負荷も高いため、インプット研修だけでなく、メンター制度で職員の精神的なサポートをしつつTEDIC内に研修部門を設立します。

▼「子ども支援・基盤運用」における具体的な取り組み
①:虎の巻(名称仮)の作成
TEDICに関わる全ての人を対象に、関わり方(姿勢)についての虎の巻の作成を行います。語られなくなってしまった、支援観や価値の可視化を目指します。
2年目に作成したものをアップデート、その他に通年で5項目の虎の巻を作成します。完成したものは、支援者研修にも運用予定です。

②:支援サポートシステム(Notion)の構築
昨年度から引き続き、支援サポートシステム(Notion)の構築を行います。また、Notionの機能を使いこなせる人数が少ないため、Notionについての勉強会を実施予定です。

▼「スタッフ研修」における具体的な取り組み
➀: 職員(スタッフ)研修の実施
3年目は支援に携わるスタッフ向けの研修を設けます。内容は昨年度の研修を踏襲し、座学及びOJTを実施します。また、2年目はマインドセット等の抽象的な内容に偏りがあり、スキルセットについてのニーズも多かったため、3年目は学習・生活支援事業の業務に必要なスキルセットを洗い出し、研修内容を再構築する予定です。

➁:ユニットMTG及び全体振り返りの実施
職員研修はインプットに重きを置きますが、ボランティア向けには振り返り型の内容の方がニーズに即しているため、各ユニットで振り返り研修を実施し、ボランティア同士の相互理解と学び合いを行います。また、年に2回はユニットを超えてTEDIC全体での振り返りを実施することで、ユニット内でクローズドになっていくことを防ぎます。

③:メンター制度の継続
2年目のNPOリーダーのメンター制度は若手スタッフからの満足度が高く、特に現場での悩み相談、TEDIC以外の団体からの視点でのフィードバックは効果が高い結果になりました。3年目は各ユニットにメンターをアサインし、定期的な面談を実施します。また、面談内容を経営陣にフィードバックするため、代表とメンターでの会議も行います。

特定非営利活動法人 TEDIC

代表理事

鈴木 平さん

大学卒業後、IT企業を経由して、2014年より子ども支援NPOに参画。在職時に「人が育つ環境をつくる」をテーマにしたユースソーシャルみやぎを設立。 その他、子ども向けキャンプや体験活動を提供するNPOの事務局も務め、2017年より、NPO法人TEDIC理事就任、2019年より現職。事務局業務及び、地域、ボランティア、子どものコーディネーション活動を行う。

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