公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2021活動報告|小児ガン患者に対する学習支援および心の発育のサポート

勇者の会

病気・障がいを抱える子どもの学び支援

2021年度の1年間の助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。



2021年事業紹介|小児ガン患者に対する学習支援および心の発育のサポート 【助成先訪問】小児がんなどの子どもたちへ学習支援を実施している、勇者の会を訪問しました!



事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

勇者の会は、北海道で小児がんなどの患者とその家族を支えている会です。病気で維持療法中のために人混みに行けない子どもたちを対象とした支援を行っています。

退院と同時に突きつけられる社会との現実。病気により髪の毛が抜け退院してからもケア帽子や感染症の危険のためマスクをしての通学や生活が長期間続きます。
もちろん、退院前には病院と学校間で復学支援会議(帽子やマスクが原因でいじめがないよう、今後の学習スケジュール等を話し合う会)を行ってから退院しますが、現実は過酷です。
いじめ・心の病により不登校となる子どもが多数いるのが現状です。

また、年間を通して多種多様の感染症にさらされる脅威と命のリスクに向き合う中、日々不安と共存し暮らしています。
感染が確認されたらすぐに家での拘束状態を余儀なくされます。そんな子ども達のために、勉強支援をしている団体は北海道にはまだ一つもないのです。だからこそ必要不可欠だと感じ、活動を始めました。

子ども達の体調に応じて院内にあった分校のような教室で、ストレスにも最大限に配慮しながら勉強をサポートし、同時に孤立しがちな家族との悩みの共有の場となるよう強く願い活動している次第です。

病気で遅れた勉強を取り戻し、その子が社会に出ていけるまでを長期間に渡りフォローアップしていきます。

事業の内容

小児がんの子ども達は病気になる時期によって、その家族が置かれる状況が一人一人違います。子どもにあわせたサポートをしています。

●幼児教育...未就学児でがんになった子どもは、幼稚園に行けないまま小学生にならざるを得ない場合があります。
家と病院でしか過ごした事がなく、海も山も行ったことがないため、絵本の中の生き物しか知らない子どももいます。
成長の中で身に付く当たり前と思ってしまっている事を、幼児教育の場で教える事で安心して小学校に通える様に勉強サポートをしています。

Zoomにて、手遊び・お遊戯・ピアノでの歌・図工、またLINE電話を使って信号を学ぶ事(スタッフが信号に実際に立ち信号の渡り方を体験)も行いました。

シール手帳や幼稚園で行っている年間行事に当てはめて季節の手遊びや図工を実施する事により、幼稚園に通えなくても通った気分になってもらう事が出来ました。
そして、小学生になった時に再入院の可能性がある子どもには、勉強を先読みしてサポートし、長期間入院しても勉強の遅れが出ないように勉強マニュアルの作成を検討しています。

パネルシアターの教材で幼児の子どもへのオンライン学習サポートをしている様子



●中学生...学校の教科書と学校でのみ購入出来るワークブックを学校側にお願いして購入し、それを元に勉強サポートを行っています。
学習の遅れがある生徒には、在籍学年に関わらず過去の学年にさかのぼり、中学一年生の勉強や小学校の基礎までもサポートをし、定期テスト時には二週間前からテスト勉強をメインとし、予想問題を考えサポートをしています。
そして、定期テスト終了後にはスタッフで会議を行い、各学校のテスト問題と点数を鑑み、今後のサポートスケジュールを見直して次の勉強に繋げています。
また、テスト終了後には三者面談をし、定期的に志望校や進路について一緒に考えています。
不登校や維持療法中の生徒については、学校の教頭先生や担任の先生に対して、保護者に代わり、勇者の会代表が連絡を取ることもあります。
提出物の提出方法を提案させていただいたり、生徒の評価に繋げる事が出来ないかなどの交渉をしたり、時には教育委員会や病院側にも学びのサポートについてお願いする事もあります。

中学生のサポートスタッフは、現役塾講師や家庭教師、教育学部の大学生を中心に活動しており、中学三年生に関しては現役高校教師にサポートをお願いしています。高校生になっても担当を変える事なくサポート出来る様に体制を整えています。
また、Zoomによるリモート授業では黒板機能付きのタブレットを用いたり、長期休暇に行う勉強合宿では違う学校のテスト問題に取り組んだり、学習支援方法については工夫をしています。


●高校生...文系、理系と目指す大学に応じて、担当の先生をわけるなどの工夫をしています。統括サポートを現役の高校教師スタッフが担当し、進路相談やアドバイスも実施しています。

オンラインや対面での学習サポート
理科実験の様子
感染対策やPCR検査キットを利用して学習サポートに取り組んでいます

事業の結果

生徒一人に対して教科ごとに3人の担当でチーム制(大学生2名・社会人1名)を組んでいます。理由は、大学生ボランティアの勉強が遅れてしまわない様に配慮しているためです。大学生スタッフには、大学のテスト前1ヶ月間はボランティアをお休みしてもらい、社会人スタッフが交代してサポートしています。

学習サポートは、1回90~120分、週2~3回で実施し、生徒によっては休憩を挟みつつ行っています。
また、定期テスト2週間前にテスト範囲が学校から出された後は、週4~5回と回数を増やしたり、勉強サポート以外の時にでも質問を受けたりと毎日対応しています。

1ヶ月に1回はレンタルルームや自宅から、代表・学習担当理事・学生代表が各生徒の勉強時間にZoomで参加し、親だけとの面談(20分)・勉強見学(90分)・生徒と面談(15分)・親子面談(15分)を行っています。Zoom終了後は先生達と勉強会会議を90分行い振り返りをしています。

学習サポートの場所は自宅からのZoom接続が基本ですが、学生ボランティアで自宅に帰る時間がない場合に限りレンタルルームを借りる事もあります。対面授業では、レンタルルームを借りて3時間(90分~120分勉強・60分先生とのカードゲームや交流会)を組み合わせて行っています。

事業の成果

チーム制(大学生2名・社会人1名)で複数の先生が一人の生徒を担当する事により、教える教科は違えど、その生徒の特性などをお互いが把握する事ができています。また、どうすればより良くサポート出来るかなどの会議を積み重ねて連携できています。
それがより良い形でサポートに結び付き、生徒の理解力も上がり成績に結び付いてきています。
学習サポート以外にも、Zoomでゲーム大会を行ったり、勉強合宿時はミニ運動会を実施したりと、勉強以外の交流を深める事で信頼関係を構築できるように工夫しています。その結果、勉強で分からない事も質問しやすくなり、テストの成績にも反映され、子どもの自信にも繋がりました。

自己評価

教科書をすべて揃えられた事により、生徒の学校の授業に沿った勉強サポートが出来ました。
また、生徒側からみても、分からないところをすぐに伝えられるようになったので、より良い体制にする事が出来たと思います。

課題および今後の展望

学校のテスト結果だけを目安にするのではなく、夏冬の勉強合宿の際には北海道コンクールという北海道の共通テストを行い、今後の指標として勉強サポートを進めていく予定です。
また、学校、教育委員会、行政に対して現状を伝え、サポート場所の提供や学校の提出物問題の見直し、配慮等を呼びかけ、小児がんの子ども達が取り巻く現実を一つ一つ解決していきたいと思います。

旭川の生徒の初回面接および学習サポートの様子
シニアの先生によるサポートのもと、夏休みの課題である「書道」に取り組みました

勇者の会

代表

阿部美幸 さん

2016 年に長男が小児ガンに罹患したことをきっかけに、2017 年11 月に勇者の会を設立。入院生活や自宅での維持療法のために人混みに行けない子どもたちを対象とした学びや体験の支援を行う。チャリティイベントや講演会などの活動も精力的に実施している。

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