公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット SNSいじめの実態! そのとき保護者にできることは?

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.23 担当:菅原 邦美

A子さんとの出会い

当時、高校生だったA子さんは、私が児童館で京都市教育委員会の保護者と高校生を交えた情報モラル講座を実施したときに参加してくれました。グループワークでAさんが「私、SNSでグループ外しされていたの。」とあまりにも明るくケロッと話されていたのが印象的でした。
「自分の体験が、今悩んでいる人の役に立てば嬉しいです。」とも話してくれました。それ以来、私はA子さんの体験談を様々な講座でご紹介しています。

SNSいじめの具体的な内容や、いじめられた子どもがどのように感じているのか、保護者はどのように対応していけばいいのかなど、ぜひ実感していただけたらと思います。

・・・それは、ある日突然始まった

当時、中学1年生のA子は、GW明けの登校で久しぶりに教室に入ったとき、一瞬で全身を包む何とも言えない空気を感じた。
「おはよう。」
A子が声をかけたのは、入学前のオリエンテーリングで出会ってすぐにSNSグループを作った6人のクラスメート。
学校でも帰宅してからのSNS上のやりとりでも、ずっと繋がっている友達だ。
それまで笑って話をしていた彼女たちは、2,3人が「あ、おはよう。」と返しはするものの、以前のようにA子を話の輪に加えることもなく6人でまた話を続けている。
そこにいるA子をスルーして。
(そういえば、GWは誰とも遊ばなかったな。lineは毎日していたけれど。GW前は7人みんなで○○に行こう!!って盛り上がっていたのに。みんな忙しかったのかな...?)
SNSグループのうち5人は部活も同じで帰り道も一緒だが、その日の5人は団子になってじゃれ合っており、A子には別れ際に『バイバイ。』と言っただけだった。



A子が感じたザラザラとした気持ち

夕食の後、恒例の7人グループのやり取りが始まった。A子がSNSを開いたときは、ちょうど「アイドル★」の話で盛り上がり始めていた。

『眠れないくらい大好き~♡』
『わたしも大好き。ずっと歌聴いてるよ♡』
『あの足の長さは神!♡』
『私のお母さんも大ファン♡♡』

...次々にメッセージが書き込まれている。

A子『わたしも「アイドル★」好きだよ。今度コンサート行こうよ♡♡♡!!』

それまでやかましいほど鳴り続けていた通知音が、ピタリとやんだ。
時間でいえば二呼吸程のほんのちょっとの "間" がそこにあった。
ついた既読は、6。A子のほかに6人の友達全員がそれを読んでいる、ということだ。

しばらくしてムードメーカーのC子が書き込んだ。

『明日の英語の宿題のworkbook学校に忘れてきた。誰か、10ページ見せて。』

ちょうどそのworkbookを開いていたA子は、すぐにそのページの写真を貼り付けた。しばらくしてB子も同じような写真を貼った。

『B子、ありがとう~^^』

C子がすぐに反応し、感謝のスタンプを連打。

『B子、はやっ!!♡♡』
『B子ありがとう。助かったよ(人''▽`)ありがとう☆』
『わたしもページがわからなかったけど、B子!(^^)!ありがとう~。』
...etc。

次々に書き込まれ、スタンプが貼られていく。そして、どれも「B子、」と呼びかけることを忘れない。

― 私が最初にworkbookの写真を貼ったのに、B子だけ? 私は無視?

今朝感じた何とも言えない空気を思い出したA子は、日付が変わっても続く7人グループのやり取りをただただ読み流すことしかできなかった。A子が何もメッセージを送らなくても、誰一人「A子」と呼びかけてはこなかった。
誰かが、「おやすみなさい。」のスタンプを貼ったのを機にその日のSNSはようやく静かになった。

A子は心がざわついたまま、宿題も手につかず睡眠不足で朝を迎えた。



予感はやがて現実となる

翌朝ぼーっとしたまま登校すると、6人は朝から楽しそうに話していた。A子がそこにいることなど気づいていないようだった。

A子は、「おはよう。」と声をかけようとしても声にならなかった。
...と、その時、

「こどもの日に行った○○で買った、みんなお揃いの・・・」と、6人のうち誰かが言った言葉がA子の耳に飛び込んできた。

― こどもの日に、○○に行ったの?
― みんなでお揃いの何か買ったの?
― ○○行くなんて知らなかったよ。お揃いってなに? 私、ハブられてるの?

ここしばらくA子が感じていた予感が、現実だと突きつけられた瞬間だった。始業のベルが鳴った。今日も授業、部活、そして、帰宅してからは7人のSNSグループのやりとり...。

「本当のことは誰にも訊けない。SNSもしっかり読んでおかないと...。友達のいるこのグループは抜けられない。だって...、だって...、独りはいや!!」
A子は唇を噛みしめた。



SNSいじめの被害者は逃げ場がない

7人グループとは別に、A子を外した仲良し6人のグループでSNSができていたのです。
SNSは閉ざされた空間~密室~でのやり取りで、グループの人数が多くなればなるほど集団vs1人のいじめに発展しやすく、いじめに加わらなくとも見て見ぬふりをする集団いじめが起きやすくなります。
また、ここでやりとりされる様子は外からは見られないため、いじめが分かりづらく、文字にも残り、24時間場所を問わずつきまとい、いじめ被害者は逃げ場がなく追い詰められていくのです。

また、いつの間にか被害者となっている場合があります。
被害者を含むグループとは別に被害者以外のメンバーで新たなSNSグループを作り交流する『SNS外し』です。今回のA子はこの『SNS外し』にあったのです。



SNS外しはほんのちょっとした違和感から始まる

もしかしたら自分は友達から『SNS外し』にあっているのかな?と感じるのは、ほんのちょっとした違和感から始まります。

・SNSグループで自分が発言しても既読無視、スルーされ、他のメンバーが発言したら盛り上がる。
・リアルなコミュニケーションで自分の知らない話題が増え、明らかな疎外感を味わう。

学校や家庭など同じようなメンバーとのコミュニケーションの中で生活している子どもたちにとって、これは大問題です。些細な違和感から確証へと変わった時、被害者の子どもは激しい絶望感に襲われます。自分が外される原因をどんなに考えてもなかなか見つかりません。
誰かを外すきっかけは、【なんとなく気に入らない】【いつの間にか】【ノリで】【たまたまターゲットがその子になった】といったものが多いということに愕然とします。そこにいる誰もが、被害者にも加害者にも、いつなってもおかしくないのです。



大人が子どもにできることとは?

そばにいる家族・見守る立場の大人はどうしたらよいのでしょうか?

~子どもの異変に気付く。親でなければピンとこない第六感を磨く~
スマホを見ている様子・表情の変化に目を配ることが大切です。親の目の届くところでスマホを使わせておくことでスマホの音に対する反応を見ることができます。また、今までは嬉々としてスマホを触っていたのに、通知音におびえるような表情になった時は何かトラブルありです。

~家族でTV報道をみてネット関係(特にSNS)の犯罪を共通の話題にする。SNSのやり取りが人の命を奪うこともある~
大切な友人が被害者になったらどうするかを子ども自身に置き換一緒に考えてみましょう。自分がされて嫌なことは、他人にもしないといったことを折に触れて親子で話すチャンスを持つとよいでしょう。

~困ったときの相談先・対策の確認~
トラブルにあってパニックの時にネットで検索すると危険なサイトの見極めがつきません。信頼できる相談先をすぐ見られるように、普段から子どもと小さなことでも顔を見て話が出来る関係を築いておくことがとても大切です。
スマホ、ネットに関しては子どものほうが詳しいこともあります。親が使い方などを尋ねることもよいでしょう。



A子のその後

A子は、中学2年生になる春休みまでSNS外しが続き、家でもスマホを握りっぱなしでSNS を恐々チェックせずにいられない日々でした。ある日、お母さんは食欲がなく成績も下がっていくA子を犬の散歩に誘いました。「スマホは持っていてもいいよ」と言って...。
久しぶりに愛犬とじゃれて走ったA子は、その間スマホを気にしなくても済みました。そして、その夜は短時間ではありましたが、熟睡しました。
その日から時々お母さんと犬の散歩に行くようになり、夕食も食べられるようになり、少しづつ朝の目覚めがよくなってきました。犬の散歩で出会う同年代の女の子ともいつしか話すようになり、A子は初めて学校以外の友人ができました。

高校受験を視野に入れ、A子は塾の春期講習に通いだしそこで新しく友達ができました。
お母さんとは犬の散歩をしながらいろんな話をしました。二人とも前を見ながら話すので恥ずかしいことやちょっと言いにくいことも話しやすいのです。
そのうちにA子は、お母さんもパート仲間や友人で作るSNSグループでトラブルや嫌な思いをしたりすることもあると知りました。お母さんや、新しくできた友人をきっかけに今までとは少し違う風景がA子の目の前に開けてきたのです。



学校の7人のSNSグループだけが自分の世界じゃない

塾、習い事、ペット繋がり、趣味... 必死に握りしめているスマホの四角い画面の中だけではなく、自分が目を向ける先には未知の出会いと無数のつながりがあることを知ったA 子は、SNSグループ外しにあって悩んでいた日々から3年後、たまたま参加した私の講座で自らの体験について笑顔で語ってくれたのです。

『あの時はずっと心の中で 助けて、助けて!って叫んでいたんです。母がその声を聴いてくれたのかな、って。』

とことん落ち込んでしまったら「助けて」と声に出すこともできません。あるいは「助けて」というのは意気地なし、弱虫、カッコ悪いじゃないか?とこらえてしまう子どももいます。
でも、もう我慢できないところまで来てしまったら、目、表情、息遣い、しぐさ等で「助けて」の声は発せられています。発せられていて良いのです。
その声を出し合い、聴きあえる...そんな関係でいられることが何よりの強みになるのだ...と、背中に羽が生えたように軽やかなA子に拍手を送ったのでした。



"いままでにあなたがいったなかで、
 いちばんゆうかんなことばは?"
 ぼくがたずねると、馬はこたえた。
  "たすけて"
  チャーリー・マッケンジー著=ぼく モグラ キツネ 馬 =より



京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市教育委員会情報モラル市民インストラクター、近畿総合通信局e-ネットキャラバン認定講師

菅原 邦美さん

ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。

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