公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 通り魔やテロから身を守るために

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.60
担当:安全インストラクター 武田信彦




鉄道における重大事件が相次ぎ発生

 近年、鉄道内における重大事件が相次いで発生しています。突然発生する通り魔やテロなどの犯罪では、巻き込まれた人々が心身ともに甚大な被害を受けてしまいます。「絶対に許さない」。社会全体で強い姿勢を持つことがもとめられます。


 しかし突発的な事件から身を守るのは難しいことです。また、事件を未然に防ぐ術も現在のところあまりありません。とはいえ、社会全体での取り組み、治安当局による防止対策の努力は引き続きもとめられます。「市民防犯」の視点から、過去に発信した記事もあるので参考にしていただければと思います。


 さて、このコラムでもくり返し取り上げている「見守り」。子どもや女性をねらう犯罪に対しては抑止効果が期待できるものの、通り魔やテロを防ぐ力にはなり得ません。人々がいる場面であえて犯罪を実行する、防犯カメラや目撃されることも気にせずに実行する...。このあたりが、防止対策を難しくしているのです。


 現状では、被害を最小化することが第一であり、そのためには、一般市民を含めた社会全体での意識の共有や、一人ひとりの心構えが必要となります。

自分の身を守るための、2つのポイント

 通り魔やテロが発生した現場に警察や消防がすぐに駆け付けることができない場合、居合わせた一般市民一人ひとりが命を守る行動をとらなければなりません。いわゆる「自助」と呼ばれる「自分で自分を守る力」が欠かせません。かと言って、武器や凶器などを護身用に持ち歩くことはできないので、自らの力や身の回りにあるものを使って身を守ることが重要です。通り魔やテロの手口はさまざまで、あらゆるケースを想定しなければいけません。


 犯行の手口によって対処も異なりますが、自助の段階で身を守るために必要なポイントは、①防護・遮蔽、②離脱・回避の2点です。


 ①防護・遮蔽は、危険との間に「盾」を設けることです。かばんや傘などを用いて刃物から身を守る。銃声を聞いたら、頑丈な壁などで遮蔽する。火災による煙や危険物質などの疑いがある場合は、布等で口や鼻を覆うなどです。

 ②離脱・回避は、「すぐに離れる」「すぐに逃げる」「近づかない」ことです。また、周囲に危険を知らせて現場へ人を近づけないことも重要です。最近では、事件現場で動画撮影を行う人もいますが、二次被害の発生を想定すると、危険な行為であるといえます。

自助とともに、「近助」で被害を最小化する

 ところで報道によると、近年の鉄道における事件では、乗客による行動や助け合いにより多くの命が救われたことがうかがえます。緊急通報ボタンを押す、避難をうながす、危険を知らせる、窓などから避難を行う...。「近助」と呼べるような、「たまたま居合わせた人々による助け合いの力」です。不審な行動や犯行に気づいた人が、すぐに行動することで、被害を最小化することができるのです。一方、鉄道の車両内では、危険の確認、車両の停止、乗客の避難など、鉄道事業者と乗客との連携も課題となります。


 通り魔やテロから身を守るためには、社会全体での取り組みが欠かせない一方、発生直後は、居合わせた一般市民が対処せざるを得ない状況が発生します。日ごろからの心構え、シミュレーションによって、すぐに動ける心の準備は必要なのではないでしょうか。「マニアックなこと...」と思わず、「命を守る知恵」としてとらえていただきたいと願います。

うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。



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