公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット ながらスマホの危険性

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.5 担当:松田玲子


前から歩いて来た女性が消えた!

ある日の午後、阪急電車に乗ろうと駅に向かって歩いていた時のことです。前から若い女性がスマホの画面を見ながら歩いて来られました。「あ・・・また歩きスマホ」と思いながら、私は多分ほんの数秒他に視線を移し、そして再び正面に向いた時、「女性がいない!消えた?」私はとっさに左右をキョロキョロとしました。そしてふと下の方に視線を向け驚きました。まるでホームベースに滑り込んだ野球選手のようなポーズでその女性が倒れていたのです。近寄って声をかけようかと迷っている間に、女性は立ち上がり、スマホを拾って歩いて行かれました。痛かっただろう、恥ずかしかっただろうと思うのと同時にやはり歩きながらのスマホは危ないと痛感しました。私も歩いていて何かにつまづき転びそうになる事がありますが何とか身体のバランスを保ち、ほとんどの場合転ばずに済んでいます。ところがスマホに注意が向き無防備になっていると今回の女性のように、バランスを取る間もなく転んでしまうという事態におちいるのです。

バギーが動き出した!

また別の日横断歩道を渡るために信号待ちをしていた時のことです。バギーを押して歩いて来られた女性が私より前方で信号待ちをされ、そしてスマホを操作するためにバギーから手を離されました。するとバギーがゆっくり車道の方に動き出してしまいました。私は思わず「ああー」と声を上げかけ寄ろうとしましたが、それよりも早く女性が気づき、バギーをつかまれたので事無きを得ました。もしバギーが車道に出てしまっていたらと想像するだけで背筋が凍るような出来事でした。幸いにもこの2つのケースは大事に至りませんでしたが、駅のホームから転落したり、人や物とぶつかり自分が怪我をするだけでなく、周りの人を事故に巻き込んでしまうケースも増加しています。

スマホ当たり屋

ながらスマホをしている人を狙った悪質な犯罪も増えています。最初から画面が割れていたり壊れたスマホを用意し、ながらスマホをしている人にわざとぶつかっていき、スマホを落とし、画面が割れたなどと相手にスマホの修理代や買い替え代金を要求してくるというものです。自分がながらスマホをしていた引け目があり、請求金額も数千円~数万円程度と、その場で払える金額なので応じてしまう人も少なくありません。

きっかけは子育て支援

私がインターネットの危険性や情報モラルについての啓発活動をするようになった背景には、乳幼児の子育て支援に携わっていたことがあります。そしてスマホやタブレット、ゲーム機による影響が乳幼児にまで及んできたことを受け、啓発活動を行うようになりました。子育て支援の一つとしてある機関で子育ての電話相談ボランティアを長く勤めてきました。当初の相談は「子どもがDVDを見たがって仕方がない。スイッチを切ると大泣きする」というのが多かったのですが、それが「ゲームをやりたがる、やめさせようとしてもなかなかやめない」に変わり、さらに「親の携帯を触りたがる。置いておくと勝手に携帯で遊んでいる」という相談が寄せられるようになりました。そしてちょうどその頃幼稚園の先生からは「園児が描く電話の絵が変わってきた。携帯の絵を描く」とお聞きし驚いたことを今も覚えています。遊んでいる様子を見ていても、おもちゃのバギーに赤ちゃんの人形を乗せ、カバンをさげ、おもちゃの携帯を耳に当て話をしながら歩くのです。あまりのリアルさにおかしくもあり怖さも感じました。''子どもは親や周りの大人をよく見ています。''

大人のながらスマホ 子どもの目にはどう映っているのでしょう

今では見慣れてしまったながらスマホの風景ですが、それは非常に危険な行為です。私は情報モラルの授業の度に「歩きスマホ、自転車に乗りながらのスマホは大変危険です。絶対にしてはいけません」と話をしていますが、多くの大人が守れていない現状の中、この言葉が本当に子ども達に届いているのか不安になります。今の子ども達は生まれた時からスマホがあり、大人の使い方をずっと見て育っています。言い換えれば大人を見てスマホの使い方を学んでいるのです。
保護者のお悩みで多いのは「インターネットのことがよくわからない」「子どもの方がスマホに詳しい」だから教えられないというようなことです。でもそんな事には関係なく、スマホや携帯電話を利用している人なら誰もが今すぐに出来ることがあります。それは歩きスマホに代表されるながらスマホをやめる事です。今のままではながらスマホによる事故やトラブルは増すばかりです。
「わかっているけどやめられない」もうそんな言い訳はやめて子ども達のために、そして自分自身が被害者にも加害者にもならないためにながらスマホを卒業し、《スマホは立ち止まって利用する》習慣付けをまずは大人からやっていきましょう。''子どもは親や周りの大人をよく見ています。''

京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市情報モラル市民インストラクター/京都市私立幼稚園PTA連合会OB会はのんの会幹事

松田玲子さん

子育てやPTA活動の経験を基に子どもを健やかに育むための取組を企画・運営している。平成20年よりインターネットの危険性や情報モラルについての啓発活動も行っている。

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