美術修復家

美術修復家の仕事内容は?

美術修復家の仕事は美術品を元の状態に復元させること

・美術修復家は


壊れたり傷んだ美術品を元の状態に復元させるのが美術修復家の仕事です。西洋絵画の巨匠の作品や文化遺産の伝統工芸品など、私たちが今美術館や博物館でそれらを見ることができるのも、修復家が何度も修復を重ねてくれたおかげです。
美術修復家は、古い時代の絵画や彫刻など、年月を経て劣化した部分を、当時の技法や素材で復元するプロフェッショナルです。また現代の作品でも災害や何かのアクシデントによって破損したり、一部消失したりした時に、修復を担当しています。

・美術修復家のプロの技とは?


美術修復家が担当するのは油彩画、日本絵画、木製品 仏画、古文書などさまざまですが、それぞれの作品は作られた時代や作品の種類によって専門の技法も材料も違います。そのため美術修復家は、自分の専門領域を持って仕事をする場合が多いようです。

・修復はどうやって行うの?


ここでは美術修復家の技を、古い絵画を例に具体的に紹介します。
絵画というのは年月がたてば、自然に絵画の絵具や顔料(がんりょう)がひび割れを起こしたり、はげ落ちたりしがちです。日本の夏のように高温多湿の気候では、カビが発生することもあります。
美術修復家はそうした劣化の元となった、ちり、ホコリ、カビなどの汚れを丁寧に慎重に取り除いていきます。そして油絵の場合なら、元の作品の絵具がはげ落ちている部分には充てん剤を詰め、修復専用の絵具で、周りの絵と色や筆のタッチを細かく調和させながら塗っていきます。日本画の場合なら、絵画用の絹や和紙など傷つきやすい繊細な素材が使われているため、修復には高い技術と熟練が必要です。

・美術修復家のやりがい


美術修復家は、有名な美術作品や文化遺産を未来へつなげる責任を負っています。とても緊張感と責任の重い仕事ですが、だからこそ自分の高い技術や知識に誇りややりがいを感じることができます。また美術館や博物館にある一流作家の名作を自分の手で復元できることも、大きなやりがいです。

・国宝や重要文化財の修復は誰がするの?


日本では国宝や重要文化財を中心とした文化財(美術工芸品)の保存修理は、国から認定された技術者集団、「国宝修理装潢師(そうこうし)連盟」の修理技術者が行なっています。修理技術者たちは、千年とも言われる伝統的な技術と、現代の科学的根拠、学術的知識や見解をもとに、最適な修理方針を選んで修復を行なっています。

・美術修復家と芸術家はどう違うの?


美術修復家の仕事は、自分の作品を作って発表する芸術家とは、やりがいや目指す方向性が違っています。
芸術家は創造的に表現をしますが、美術修復家は修復の中で、創造的に表現をすることはありません。美術修復家は、文化財や美しい美術品を元の姿にして後世に残ることに使命感を持っており、復元の専門知識と技術を持った職人的な仕事です。
美術修復家はどんな働き方をするの?

美術修復家は美術館や博物館、修復工房などに就職

美術修復家は、美術館や博物館、修復工房などに就職して働きます。極めて高度で専門的な知識と技術が必要な仕事なので、助手として1人前になるまでにも10年はかかると言われています。

大きな絵画や大量の絵巻などを扱う修復の場合は、複数の修復家が共同で作業を行ったり、分野の違う研究チームが協力して修復の方向を考えたりします。
このような大きな作品の修復にかかわっている時期は、美術修復家は定期的に休みを取れないことがあります。

「修復家」の工房は、アトリエというよりも、まるで科学実験室や研究室のようだと言われます。修復に使う照明器具や顕微鏡、赤外線カメラ、注射器、パソコンなど、さまざまな道具や薬剤が置かれています。
美術修復家はどんな人に向いているの?

美術修復家には深く考え分析することが得意な人に向く

美術修復家は、修復作業にかかる前に「その作品がなぜ劣化したのか」「どのように修復すべきか」を考える仕事です。知識を使って深く考え分析することが得意な人は、美術修復家の基本的な適性を持っています。 また実際の作業では、手先の器用さ、粘り強く細かい作業をやり遂げる根気と集中力が必要です。また失敗が許されない仕事なので慎重さ、注意力も欠かせません。 近年は作品の元の状態を調べるために、赤外線カメラなどを使った先端技術を扱うことも多々あります。美術修復家は、美術作品への深い理解だけでなく、化学、物理、光学、そして歴史といった幅広い学問にも興味を持って勉強できる人が向いています。
美術修復家の将来展望は?

美術修復家の将来展望 美術作品が伝承されるためには必要不可欠

美術館や博物館の展示に足を運ぶ人がいる限り、美術修復家の仕事は将来もなくならないでしょう。
美術作品は年月がたつと、自然に劣化していくものなので、美術修復家がいなければ素晴らしい美術作品が後世には伝承されません。

また今の日本では「美術修復家」の存在になじみがなく、絵や彫刻などの美術品を個人的に持っていても、劣化を食い止めるためにプロに依頼する人はそう多くありません。
しかし今後もっと美術修復家の知名度が高まり、職業としての重要性も認知されれば、需要の伸びる職業の一つと言えます。
美術修復家にはこうすればなれる!

美術修復家になるには技術や知識の習得が大切

美術修復家には必須の資格などはとくにありません。

美術系の専門学校や大学、大学院の保存修復過程で学んだのち、修復を手がける工房や企業、美術館、博物館、ギャラリーなどに就職して、修復に必要な技術や知識を修得するのが一般的な進路です。

日本で美術品補修の技術を専門的に教えている大学は、東京芸術大学大学院などに限られます。
油彩画の修復技術に関しては、日本より海外の方が進んでいるともいわれます。油彩画の修復家のエキスパートをめざすなら、西洋美術の本場ヨーロッパなどで修業を積み、海外の工房や美術館での就職をめざすのも一つの方法です。

また修復には化学や物理、光学など、理系の知識も必要とされるため、美術系大学出身以外でも、大学で修理に関連する史学や、理工学を修めて工房に応募し、採用される場合もあります。

美術修復家は美術系の大学院を卒業した人でも、現場で長い年月の修業が必要です。先述のように、助手として務まるようになるのにも10年はかかる職業と言われます。美術修復家はそのぐらい職人的な技術と経験を要する仕事なので、工房に就職する際には先輩から学ぶ「弟子入り」のような心意気が必要と言えるでしょう。