教育

東京大学社会科学研究所 所長 玄田 有史

株式会社ベネッセホールディングス 代表取締役社長 CEO 小林 仁

東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 共同研究プロジェクト 「子どもの生活と学びに関する親子調査 2022」結果速報 「上手な勉強のしかたがわからない」という悩みが約 7 割に増加 ~ "学習方法の理解"は学習意欲と成績の向上に効果があることが明らかに~

 東京大学社会科学研究所(所在地:東京都文京区、総長:藤井 輝夫)と株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2014年に「子どもの生活と学び」の実態を明らかにする共同研究プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、同一の親子(小学1年生から高校3年生、約2万1千組)を対象に、2015年以降8年間にわたり複数の調査を実施し、12学年の親子の意識・行動の変化を明らかにしてきました。継続的に親子の意識や行動を追跡した貴重なデータです。
 本調査の昨年のニュースリリース(2022年4月20日発信)では、子どもたちの「勉強する気持ちがわかない」という回答が半数以上になり、学習意欲が低下していることを報告しました。この傾向は今回の調査でも同様であり、学習意欲が高まらない状況が継続しているようです。そこで今回は、学習意欲を高めるために何をすればよいかを考えるため、「学習方法の理解」に注目した分析を行いました。「上手な勉強のしかたがわからない」子どもは、2019年から22年にかけて増加し、約7割になります。分析では学習方法を理解することの効果について、さまざまな角度から検討を行いました。子育てや教育にかかわる多くの方々に子どものより良い学びのあり方を考える資料としてご活用いただきたく、本プロジェクトの分析結果をご報告します。

調査の主な結果は、以下の通りです。

1.「上手な勉強のしかたがわからない」という子どもが、この4年間で増加
◆「上手な勉強のしかたがわからない」に対する肯定率(とてもあてはまる+まああてはまる)は2019年から22年にかけて増加し、「あてはまる」という子どもが約7割に。

2.学習方法の理解は、学習意欲や成績と関連
◆学習方法の理解は、学習意欲や成績と関連しています。今回の分析では、学習意欲を示す指標よりも成績との相関が高い傾向がみられました。

3.学習方法の理解について、2か年の変化では「理解に変化」群が12.5%
◆「上手な勉強のしかたがわからない」について同じ子どもの変化を2か年にわたり追跡したところ、学習方法が「不明」から「理解」になった「理解に変化」群が12.5%存在。

4.学習方法が理解できるようになると、連動して学習意欲も向上
◆学習方法の「理解に変化」群は、翌年の学習意欲が向上。

5.学習方法が理解できるようになると、連動して成績が上昇
◆学習方法の「理解に変化」群は、翌年の成績が向上。

6.学習方法の理解は、論理的な思考や粘り強さとも関連
◆「学習方法・理解」群は、論理的思考が得意で、決めたことをやり遂げる子が多い。

7.学習方法を理解している子どもは、さまざまな学習方略を実践
◆「学習方法・理解」群は、「学習方法・不明」群にくらべて自己調整や学習のプランニング、モニタリングなどの方略を多く実践。

【調査結果】

1.「上手な勉強のしかたがわからない」という子どもが、この 4 年間で増加

◆「上手な勉強のしかたがわからない」に対する肯定率(とてもあてはまる+まああてはまる)は 2019 年から 22 年にかけて増加し、「あてはまる」という子どもが約 7 割になりました。学習方法に悩む子どもが増えているようです。

■図1 学習方法に対する悩みの変化

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●「上手な勉強のしかたがわからない」の肯定率(小学 4 年生から高校 3 年生までの全体の数値)は、19 年(57.2%)→20 年(59.6%)→21 年(61.5%)→22 年(67.5%)と、4 年間で 10.3 ポイント上昇しました。学習方法に悩む子どもが増えています。

●学校段階別にみると、学校段階があがるほど肯定率は高い傾向があります。22 年の数値では、小 4~6 生 61.1%、中学生 68.1%、高校生は 73.2%で、小 4~6 生と高校生の間には 12.1 ポイントの差がありました。高校生は 7 割以上の子どもが学習方法の悩みを抱えています。

●19 年から 22 年にかけての増加幅をみると、学校段階が低いほど増加が大きい傾向がみられました。小 4~6 生では 18.5 ポイント、中学生では 8.1 ポイント、高校生では 4.5 ポイントの増加です。とくに小学生で、学習方法の悩みが増えています。

2.学習方法の理解は、学習意欲や成績と関連

◆上手な勉強のしかた(学習方法)の理解は「学習意欲」と正の相関があり、理解が進むと意欲も高まる関係にあります。また、今回の分析では、学習方法の理解は、学習意欲や成績と関連しています。今回の分析では、学習意欲を示す指標や学習時間よりも、成績との相関が高い傾向がみられました。


■図2 学習方法・学習意欲・学習時間・成績の関連(相関係数)

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●「学習方法」は「学習意欲」とやや強めの相関があり、学習方法の理解が進むと学習意欲も高まる傾向があります。このことは、いずれの学校段階でも同様です。

●今回の分析では、「成績」にもっとも強い関連があったのは「学習方法」でした。これに「学習意欲」が続き、「学習時間」はかなり弱い相関しかみられませんでした。「学習時間」をやみくもに長くするよりも、「学習方法」を身につけるほうが成績向上に早道と言えそうです。このことは、いずれの学校段階でも同様です。

●ただし、「学習時間」と「成績」の関連は、小 4~6 生でもっとも強く、高校生でもっとも弱い結果になりました。学年が低いうちは、学習習慣の定着も、成績に一定の効果があります。

3.学習方法の理解について、2 か年の変化では「理解に変化」群が 12.5%

◆「上手な勉強のしかたがわからない」の回答について同じ子どもの変化を 2 か年にわたり追跡したところ、2021 年調査は「不明」から 22 年調査で「理解」になった「理解に変化」群が 12.5%いました。

■図3 学習方法の理解に関する 2 か年の変化(2021 年→22 年)

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●「上手な勉強のしかたがわからない」の回答について同じ子どもの変化を 2 か年にわたり追跡したところ、「不明のまま」群がもっとも多く 47.4%で、「理解キープ」群の 20.6%がこれに続きました。2 つを合わせた 68.0%は前年から変化がなかった子どもたちです。

●一方で、「理解に変化」群は 12.5%、「不明に変化」群は 19.5%となりました。上の学年にあがるほど「上手な勉強のしかたがわからない」の肯定率が増えるため、「不明に変化群」のほうが多く出現していますが、「理解に変化」群も 1 割強存在しています。

4.学習方法が理解できるようになると、連動して学習意欲も向上

◆学習方法の理解の 2 か年の変化と学習意欲の 2 か年の変化の関連をみたところ、「理解に変化」群では「意欲上昇」群が、「不明に変化」群では「意欲低下」群が多く出現しています。学習方法の理解と学習意欲は、連動して変化していることがわかりました。

■図4 学習意欲の変化(学習方法の理解の変化別、2021 年→22 年)

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●学習方法の理解の 2 か年の変化を 4 群にわけて意欲の 2 か年の変化との関連をみたところ、両者は連動していることがわかりました。

●学習方法の「理解キープ」群には、学習意欲の「意欲キープ」が多く出現します。学習方法を理解し続けている子どもは、高い意欲をキープしていることがわかります。反対に、学習方法が「不明のまま」群には、学習意欲が「低意欲のまま」群の子どもが多く出現しています。

●前年に学習方法を理解していなかったにもかかわらず翌年に理解に転じた「理解に変化」群には、「意欲上昇」群が多く出現しています。逆に学習方法を理解している状態からわからないに転じた「不明に変化」群には、「意欲低下」群が多い傾向がみられました。


5.学習方法が理解できるようになると、連動して成績が上昇

◆学習方法の理解の 2 か年の変化と成績 2 か年の変化の関連をみたところ、学習方法が「理解に変化」群では成績が上がっているのに対して、「不明に変化」群では成績が下がっています。

■図5 成績の変化(学習方法の理解の変化別、2021 年→22 年)

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●学習方法の理解の 2 か年の変化を 4 群にわけて成績(偏差値に換算)の 2 か年の増減をみたところ、両者は連動していることがわかりました。

●学習方法の「理解に変化」群は、前年よりも成績が+1.8 ポイント高まりましたが、「理解キープ」群では+0.4 ポイント、「不明のまま」群では+0.2 ポイントにとどまり、「不明に変化」群では-1.2 ポイントでした。学習方法の理解が進むと成績が上がり、わからなくなると成績が下がるという結果です。


6.学習方法の理解は、論理的な思考や粘り強さとも関連

◆学習方法の理解について 2 か年の変化と成績 2 か年の変化の関連をみたところ、学習方法が「理解に変化」群では成績が上がっているのに対して、「不明に変化」群では成績が下がっています。

■図6 論理的な思考・粘り強さ(学習方法の理解の変化別×成績別)

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●学習方法の理解は成績だけでなく、論理的に考える力や粘り強さのような多様な資質・能力とも関連しています。

●「論理的に(筋道を立てて)考えること」が得意か苦手かをたずねた結果では、成績上位層ほど「得意」が多い傾向にありますが、いずれの成績層でも「学習方法・理解」群のほうが「得意」が多い結果になりました。

●「一度決めたことは最後までやりとげる」かどうかをたずねた結果では、成績上位層ほど「あてはまる」が多い傾向にありますが、いずれの成績層でも「学習方法・理解」群のほうが「あてはまる」の回答が多く出現しました。

7.学習方法を理解している子どもは、さまざまな学習方略を実践

◆「上手な勉強のしかたがわからない」に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した「学習方法・不明」群にくらべて、「あまり当てはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した「学習方法・理解」群は、さまざまな学習方略を実践しています。とくに、自己調整や学習のプランニング、モニタリングなどの方略で、両者の差が大きい結果になりました。

■図7 学習方略(学習方法の理解別)

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●子どもたちは日々の学習のなかでさまざまな学習方略を使って学んでいます。しかし、「上手な勉強のしかたがわからない」を肯定している子ども(「学習方法・不明」群)は、そうでない子ども(「学習方法・理解」群)に比べて、採用している学習方略が少ないことがわかりました。

●「学習方法・理解」群と「学習方法・不明」群の差が大きいのは、【自己調整方略】(23.7 ポイント差)、【プランニング方略】(21.3 ポイント差)、【モニタリング方略】(19.8 ポイント差)などです。メタ認知を使って自分の学習を客観的にとらえ、自分で調整しながら学習するような方略が、学習方法の理解を促進します。

●そのほか、【メリハリ方略】(17.8 ポイント差)のような学習の集中、【意味理解方略】(17.7ポイント差)のような多面的な思考、【解き直し方略】(16.9 ポイント差)のような学習内容のふりかえり、【深化方略】(16.7 ポイント差)のような学習内容の深化も、学習方法の理解と関連しているようです。

【まとめと考察】

●分析のねらい

 本調査の昨年のニュースリリース(2022年4月20日発信)では、子どもたちの「勉強する気持ちがわかない」という回答が半数以上になり、学習意欲が低下していることを報告しました。この傾向は今回の調査でも同様であり、学習意欲が高まらない状況が継続しているようです。そこで今回は、学習意欲を高めるために何をすればよいかを考えるため、「学習方法の理解」に注目した分析を行いました。

●学習方法に関する悩みの増加

 学習方法の理解について「上手な勉強のしかたがわからない」という質問の回答をみると、2019年から継続して肯定率が高まっています(図1)。この質問に「とてもあてはまる」+「まああてはまる」と回答した比率(小学4年生から高校3年生までの全体の数値)は、19年(57.2%)→20年(59.6%)→21年(61.5%)→22年(67.5%)と、4年間で10.3ポイント上昇しています。学習方法に悩む子どもが増えており、とくに小学生の増加幅が大きいことが明らかになりました。

●学習方法を理解する意義や効果

 では、学習方法の理解は学習意欲とどのように関連しているのでしょうか。学習方法と学習意欲、学習時間、成績との関連をみたところ、それらは相互に相関しています(図2)。とくに学習方法の理解は、学習意欲と強い関連があり、成績との相関係数は学習意欲よりも強いという結果でした。学習方法を身につけることは、学習意欲と成績の向上に効果があると考えられます。
 この点についてもう少し正確に検討するために、同じ子どもを継続的に追跡するパネル調査の特徴を生かして、それぞれの2か年の変化の関係を検証しました。学習方法の2か年の変化(21年調査→22年調査、理解しているものを〇、理解していないものを×と表記)をみると、「〇→〇」の「理解キープ」群が20.6%、「×→〇」の「理解に変化」群が12.5%、「〇→×」の「不明に変化」群が19.5%、「×→×」の「不明のまま」群が47.4%います(図3)。そこで、それぞれの群ごとに、学習意欲の変化、成績の変化との関連をみてみました。
 学習意欲の変化では、学習方法の「理解に変化」群で「意欲向上」群が多く出現する一方で、「不明に変化」群で「意欲低下」群が多く出現し、相互の変化が連動しています(図4)。学習方法を理解するようになると、学習意欲が向上しています。さらに、成績の変化では、「理解に変化」群の成績の伸びが顕著で、この群は他の群と有意に成績が向上していました(図5)。学習方法を理解することは、学習意欲のような意識に影響し、成績にも効果をもっています。
学習方法の理解は、学校での成績を高める効果をもつだけではありません。たとえば、論理的思考や粘り強さなどとも関連しています(図6)。子どものときに学習方法を身につけるということは、課題を乗り越えるための「一生モノの力」を獲得することにもつながります。

●家庭や学校で学習方法の指導を!

 それでは、学習方法を理解している子どもは、実際にどのような学習方略を身につけているのでしょうか。図7をみると、【自己調整方略】や【プランニング方略】【モニタリング方略】など、メタ認知を使って自分の学習を客観的に捉え、自分で調整しながら学習をしていることがわかります。また、【メリハリ方略】のような学習の集中、【意味理解方略】のような多面的思考、【深化方略】のような学習内容の深化も、学習方法の確立に有効です。こうした学習方略を身につけるために学校や家庭で学習方法を指導することは、子どもの学習意欲や成績、そのほかの資質・能力の向上に効果があると考えられます。

【調査概要】

名称

「子どもの生活と学びに関する親子調査 2016-2022」(第 2-8 回)
※2015 年調査(第 1 回)は今回の分析に含めていないため、割愛した。

調査テーマ

【子ども調査】 子どもの生活と学習に関する意識と実態
【保護者調査】 保護者の子育て・教育に対する意識と実態 ※小 1~3 生は保護者のみ実施

調査時期

各年 7~9 月

調査方法 2016~20 年は郵送による自記式質問紙調査、2021 年は一部 web 調査、2022 年は web 調査
調査対象

全国の小学1年生~高校 3 年生の子どもとその保護者(小1~3生は保護者のみ回答)
*本研究プロジェクトの調査モニター対象。以下は、各年のサンプル数(親子ペア)

20230411_表1.png※小1~3生は今回の分析では扱っていないため、表から省略した

「子どもの生活と学び」研究プロジェクトメンバー

*所属 ・肩書は 2023 年 4月時点

●プロジェクト代表者
佐藤香(東京大学教授)、野澤雄樹(ベネッセ教育総合研究所所長)
●プロジェクトメンバー
耳塚寛明(お茶の水女子大学名誉教授、青山学院大学客員教授)、秋田喜代美(学習院大学教授、東京大学名誉教授)、松下佳代(京都大学教授)、石田浩(東京大学特別教授)、藤原翔(東京大学准教授)、大野志郎(東京大学特任准教授)、大﨑裕子(立教大学特任准教授)、木村治生(ベネッセ教育総合研究所主席研究員)、松本留奈(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、朝永昌孝(ベネッセ教育総合研究所研究員)、岡部悟志(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、中島功滋(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、劉愛萍(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、大内初枝(ベネッセ教育総合研究所スタッフ)、渡邉未央(ベネッセ教育総合研究所スタッフ)
●調査検討ワーキンググループメンバー
須藤康介(明星大学准教授)、小野田亮介(山梨大学大学院准教授)、山口泰史(帝京大学元助教)

※データに関する留意点・表記について
本文書で使用している百分率(%)は、各項目の算出方法に沿って出した値の小数点第2位を四捨五入して表示しています。その結果、数値の和が100にならない場合があります。


【詳しいデータのご紹介】

0411QR.png●ベネッセ教育総合研究所のホームページからも、本資料と調査結果をまとめた「速報版(レポート)」をダウンロードできます。ここに紹介した以外のデータや学校段階別のデータはこちらをご覧ください。

最終更新日:2023年04月11日