幼児の親子の変化を捉える調査「第6回幼児の生活アンケート」 「子どものためにがまん」から「自分の生き方も重視」へ ~育児負担感や不安感が増加、社会全体で子育てを支援する「チーム育児」を~
株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2022年3月に、首都圏に住む0歳6か月~6歳(就学前)の乳幼児をもつ保護者4,030名を対象に、「第6回幼児の生活アンケート」を実施しました。1995年、2000年、2005年、2010年、2015年の実施に続き6回目となる本調査は、少子化や共働き世帯の増加などの社会環境の変化の中で、子どもの生活や、保護者の子育ての実態や意識がどのように変化したのかを、27年間の比較を通して明らかにします。
子育てや保育にかかわる多くの方々に、子どもやその家族へのより良い支援のあり方を考えるための情報としてご活用いただきたく、分析結果をご報告します。
【対象者の基本属性の変化】共働き世帯、保育園児、四年制大学を卒業した母親の増加
母親の平均年齢:00年調査33.8歳→15年調査36.5歳→22年調査36.1歳
母親の有職率:95年調査21.4%→15年調査40.2 %→22年調査44.6%
保育園の就園率:95年調査10.4%→15年調査28.8 %→22年調査40.6%(うち、認定こども園6.4%)
母親の四年制大学卒業者:00年調査15.1%→15年調査33.5%→22年調査43.9 %
調査の主な結果は、以下の通りです。
※調査回答者の9割以上が母親であること、また経年比較の観点からも、
今回の分析対象を「1歳6か月~6歳(就学前)の子どもをもつ母親」としました。
1.2015年に比べて、母親の育児負担感や不安感は増加。また、「子どものためにがまん」が減り、「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という意識が上昇。
① 子育てへの肯定的感情は減り、否定的感情が増えている。特に、働く母親の育児負担感や不安感が増え、就業形態による差は縮まっている(00-22年調査)。
② 母親の子育て観では、「子どものためには、自分ががまんするのはしかたない」が減り「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」と回答した比率が増えている(05-22年調査)。
2.2015年に比べて、「母親の友人・知人」「祖父母」からのサポートは減少。
① しつけや教育の情報源は、「母親の友人・知人」「祖父母」が大幅に減っている(15-22年調査)。
② 母親が家を空ける時、子どもの面倒をみるのは「父親」が中心となっており、父親以外のサポートが減っている(05-22年調査)。
3.低年齢の未就園児がいる母親は子育てへの不安がより強く、頼れる人が限定的。
① 低年齢の未就園児がいる母親は、子育てへの不安が強い(22年調査)。
② 低年齢の未就園児がいる母親は、人から得る「しつけや教育の情報源」に対して「あてはまるものはない」と回答した比率が高く、頼れる人が限られている(22年調査)。
【調査結果詳細】
1.2015年に比べて、母親の育児負担感や不安感は増加。また、「子どものためにがまん」が減り、「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という意識が上昇。
① 子育てへの肯定的感情は減り、否定的感情が増えている。特に、働く母親の育児負担感や不安感が増え、就業形態による差は縮まっている。
2015年から2022年にかけて、肯定的な感情は減り、否定的な感情が増えています。肯定的感情の比率はどの項目も高いものの、いずれの項目も前回から5ポイント以上も下がっています(図1-1)。一方、母親の子育てへの否定的感情は増えています。特に、「子どものことでどうしたらよいかわからなくなること」は13ポイント増、「子どもを育てるためにがまんばかりしていると思うこと」は約20ポイント増と、前回に比べて大幅に増加しました(図1-2)。なかでも、働いている母親の育児負担感(「子どもを育てるためにがまんばかりしている」「わずらわしくていらいらしてしまう」)や育児不安感(「子どものことでどうしたらよいかわからない」)の上昇が顕著で、従来高かった専業主婦との間の差が縮まり、5ポイント以上の差はみられませんでした(図1-3)。
② 母親の子育て観では、「子どものためには、自分ががまんするのはしかたない」が減り、 「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」と回答した比率が増えている。
子育て観の項目をみると、「子どもが3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいたほうがいい」と回答した比率は徐々に減り、2022年では44.9%と半数を切りました。一方、「母親がいつも一緒でなくても、愛情をもって育てればいい」は55.1%となり、母親の子育てに対する役割意識が変わり始めています(図1-4)。
2005年以降、「子どものためには、自分ががまんするのはしかたない」は増えていましたが、2022年では「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」が増えています(図1-5)。特に、専業主婦において「自分の生き方も大切にしたい」という意識が高まっており(44.5%→60.2%)、母親の就業形態による差は縮まっています(図1-6)。
2.2015年に比べて、「母親の友人・知人」「祖父母」からのサポートは減少。
① しつけや教育の情報源は、「母親の友人・知人」「祖父母」が大幅に減っている
「しつけや教育の情報を誰から得ていますか」に対して身近な人と回答した比率は、2015年に比べて減っています。大幅に減少した項目は、「母親の友人・知人(72.0%→36.0%)」「(母方の)祖父母(43.1%→26.6%)」「母親のきょうだいや親戚(23.8%→13.0%)」であり、コロナ禍のため対面で会う機会が減り、子育てに関する情報が集めにくくなっていると考えられます。また「子育てサークルの仲間」「園の先生」も減少しており、情報交換や相談をする機会が減っていることがわかります(図2-1)。
② 母親が家を空ける時、子どもの面倒をみるのは「父親」が中心となっており、父親以外のサポートが減っている。
母親が家を空ける時、子どもの面倒をみてくれる人・機関が「いる(ある)」と回答した比率は、7年前に比べて約15 ポイント減少しました(78.0%→62.3%)(図2-2)。特に、「祖父母や母親のきょうだい、親戚」が減っています。また「保育園の一時預かりや幼稚園の預かり保育」の利用も減っています。面倒をみてくれる人・機関が全体的に減少するなか、「父親」と回答した比率は増えています(65.7%→82.0%)(図2-3)。核家族中心に子育てせざるを得なくなっている状況がうかがえます。
3.低年齢の未就園児がいる母親は子育てへの不安がより強く、頼れる人が限定的。
① 低年齢の未就園児がいる母親は、子育てへの不安が強い。
1歳6か月~3歳11か月の未就園児がいる母親は、「子どものことでどうしたらよいか分からなくなること」に対し「よくある」と回答した比率が、保育園児の母親より4.6 ポイント高くなっています(図3-1)。「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になること」も同様に、未就園児の母親の方が「よくある」の比率が高く、保育園児の母親とは7.7ポイントの差が生じています(図3-2)。未就園児がいる母親は、より困難を抱えていることがわかります。
② 低年齢の未就園児がいる母親は、人から得る「しつけや教育の情報源」に対して「あてはまるものはない」と回答した比率が高く、頼れる人が限られている。
子どもの就園状況別に、誰からしつけや教育の情報を得ているかをみると、低年齢の保育園児がいる母親は「園の先生」が54.2%と一番高くなっています。他方、未就園児がいる母親は「あてはまるものはない」が一番高く、保育園児の母親の回答率とは10.7ポイントの差がみられます(表3-1)。
【考察】
2015年以降、子育て家庭を取り巻く環境には大きな変化がありました。例えば、女性活躍推進法の公布・施行(2015年9月)、待機児童の問題化(2016年)、保育・幼児教育の無償化の導入(2019年10月)、新型コロナウイルスの流行(2020年~)などです。
こうした社会の動きとともにみえてきたことは、母親の子育てに対する意識の変化です。前回の調査以降、「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という意識が高まっています。なかでも、専業主婦において、自分の生き方も重視する傾向が増え、就業形態による差がなくなったことからも、母親全体の傾向になってきています。子育て観が変化した背景には、過去に比べて、女性の大学進学率や就業率が上昇しており、選択肢が広がるなかで、自分らしい生き方や働き方を求めているのではないかと推察されます。
母親の育児負担感や不安感の増加は、新型コロナウイルスの流行に伴って、「友人・知人」「祖父母」と会う機会が減り、子育てに関する情報を得にくくなったことや、子どもの面倒をみてくれる人が限られていることが要因として考えられます。
子育てへの否定的な感情を伴った養育態度は、親子関係を悪化させていく懸念があります。東京大学Cedep・ベネッセ教育総合研究所「乳幼児の生活と育ちに関する調査」(2019)は、「頼りになるコミュ二ティが広い人ほど、子育て肯定感が高い」ことを明らかにしています。また浜屋・中原(2017)は、「母親が一人で抱え込む『ワンオペ育児』から、父親と母親、さらには祖父母、親戚、保育園などさまざまなサポートを得て行う『チーム育児』へと移行することが必要」(p.76)と述べています。こうした研究知見を参考にすると、コロナ禍で孤立した子育てが進む今、園や行政等のソーシャルサポートは欠かせません。「チーム育児」によって、母親自身の時間を確保することができます。また、安心して子育てに向き合えることは家族の幸せや充実につながっていきます。今後は、核家族中心の子育てではなく、社会全体で「チーム育児」を推し進めていくことが必要です。ベネッセ教育総合研究所は本調査の結果を踏まえ、よりよい子育て環境の実現に資する研究と社会への発信を行ってまいります。
【参考資料】
※東京大学Cedep・ベネッセ教育総合研究所「乳幼児の生活と育ちに関する調査」(2019)
※浜屋祐子・中原淳(2017)『育児は仕事の役に立つ―「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ』、光文社新書。
「第6回幼児の生活アンケート」の結果をめぐって
無藤 隆(白梅学園大学 名誉教授)
本調査は2022年3月に首都圏の乳幼児をもつ保護者(母親)に対して行われた。その時期はコロナによる自粛が続いていた頃であり、幼稚園・保育所などもかなり学級閉鎖や登園の自粛が広がっていた時期である。おそらくその時期の特徴が今回の結果に反映されているが、同時に時代的なトレンドの現れの面もある。保育所の就園率が急速に上がっていることと、高学歴化が進行していることも影響しているはずである。
母親の育児への否定的感情が増し、肯定的感情が減ってきている。特に未就園(1歳6か月~3歳11か月)の子どもがいる場合にそれが大きい。また助けてもらえる相手が祖父母や友人が大幅に減り、父親が中心となっている。そのことは子育てが核家族として進める状況にあるということと、園にいろいろな点で頼ることが増えてきていることを意味するだろう。他の項目などを見ても園への期待が高まっている。子どもを園に預け、園からの情報を(ネットからの情報とともに)頼りにし、さらに園での幼児教育を重視するようになった。就業形態・専業主婦を問わず、子育てと自分の生き方の両立を図ることが主流になってきており、子どもを大事にしつつも、その子育ての時期は長い人生の一部としてとらえるようになってきたのではないだろうか。
名称 | 「第6回 幼児の生活アンケート」 |
調査テーマ | 乳幼児の生活の様子、保護者の子育てに関する意識と実態 |
調査方法 |
第1回~第5回 郵送法(自記式アンケートを郵送により配布・回収) ※子どもの年齢(6か月ごとの13区分)、性別(2区分)、都県(4区分)に分けて抽出。 |
調査時期 | 第1回1995年2月/第2回2000年2月/第3回2005年3月 第4回2010年3月/第5回2015年2~3月/第6回2022年3月 ※第6回の調査は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により2022年に実施した。 |
調査対象 | 第1回 首都圏の1歳6か月~6歳の就学前の幼児をもつ保護者1,692名 第2回 首都圏および地方都市(富山市、大分市)の1歳6か月~6歳の 就学前の幼児をもつ保護者3,270名 ※経年での比較を行うために、地方都市の回答を分析から除外 第3回 首都圏の0歳6か月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者2,980名 第4回 首都圏の0歳6か月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者3,522名 第5回 首都圏の0歳6か月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者4,034名 第6回 首都圏の0歳6か月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者4,030名 ※首都圏は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県 ※本リリースペーパーでは、1歳6か月以上の幼児をもつ母親の回答のみを分析。 各回のサンプル数は、以下の通り。 第1回1,659名、第2回1,570名、第3回2,258名、 第4回2,839名、第5回3,287名、第6回3,410名 ※分析では、百分率(%)はすべてウェイトをつけ、小数点第2位以降の値も含めて数値を算出している。サンプル数はウェイトをつける前の人数を表している。 ※図表で使用している百分率(%)は、小数点第2 位を四捨五入して算出している。 四捨五入の結果、数値の和が100.0 にならない場合がある。 |
調査項目 | 子どもの基本的な生活時間/習い事/メディアとのかかわり/遊び/母親の教育観・子育て観/今、子育てで力を入れていること/母親の子育て意識/父親との家事・育児分担/子育て支援 など |
調査企画 メンバー・ 分析 協力者 |
●調査監修者 無藤 隆(白梅学園大学名誉教授) 佐藤 暁子(東京家政大学大学院客員教授) 荒牧 美佐子(目白大学准教授) ●メンバー 野﨑 友花・高岡 純子・岡部 悟志・酒井 晶子・持田 聖子 (以上、ベネッセ教育総合研究所) |
ベネッセ教育総合研究所のホームページからも、本リリース資料や詳細データをダウンロードできます。https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=5803