教育

株式会社ベネッセホールディングス

代表取締役社長 CEO 小林 仁

チャイルド・リサーチ・ネット 国際共同研究「子どもの生活に関するアジア8か国調査2021」結果報告 コロナ禍での子どものウェルビーイングには"レジリエンス"の育成が重要

~レジリエンス育成のカギは"保護者の養育態度"と"園でのサポート"~


 株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所が運営を支援するチャイルド・リサーチ・ネット(以下:CRN)は、2021年8~11月に、日本を含むアジア8か国*の5歳の子どもをもつ母親を対象とした「子どもの生活に関するアジア8か国調査2021」を実施しました。

 先行する調査や研究では、コロナ禍の長期化によって多くの子どもが心身に不調を感じ、「ウェルビーイング(心身の良好な状態、幸福)」の実現が脅かされていることが明らかになっています。そこでCRNでは、アジア8か国の共同研究者とともに、子どものウェルビーイングの状況と、その実現に必要と考えられる「レジリエンス(困難な状況に適応して回復する力)」に着目した調査を企画しました。国際比較を通して共通点や相違点を発見することで、それぞれの国の実情に合った対策を検討することがねらいです。
調査結果からは、8か国共通で、コロナ禍という困難な状況の中で、子どものウェルビーイングに「レジリエンス」の育成が重要であることが明らかになりました。また日本を含む複数の国では、レジリエンスの向上に「母親の養育態度」や「園(保育者)のサポート」などが関連していることも分かりました。

 子育てや保育にかかわる多くの方々に、子どもやその家族へのより良い支援のあり方を考えるための資料としてご活用いただきたく、分析結果をご報告します。
 *参加したアジア8か国:日本、中国、フィリピン、マレーシア、台湾、インドネシア、シンガポール、タイ

調査の主な結果は、以下の通りです。
 ※国際比較の観点から、今回は調査対象を8か国共通で母親としました。

1.8か国共通で、子どものウェルビーイングにレジリエンスが関連

◆レジリエンスを育むことが、子どものウェルビーイングの実現に重要であると言えます。

2.日本では、①母親の応答的な養育態度、②母親の子育て肯定感、③園(保育者)のサポート、④デジタルメディア使用時の母親のサポート、⑤遊べる友達の数が、子どものレジリエンスに関連

◆上記①~⑤の各項目を高群・中群・低群に分けて群ごとに子どものレジリエンス得点を比較すると、高群の方がレジリエンス得点が高いという結果が得られました。

3.日本以外でも多くの国で、①母親の応答的な養育態度、②母親の子育て肯定感、③園(保育者)のサポート、④デジタルメディア使用時の母親のサポートは、子どものレジリエンスに関連

◆①母親の応答的な養育態度と③園(保育者)のサポートは日本を含む5か国、②母親の子育て肯定感と④デジタルメディア使用時の母親のサポートは日本を含む4か国で、子どものレジリエンスに関連していました。


【調査結果詳細】

1.8か国共通で、子どものウェルビーイングにレジリエンスが関連

◆レジリエンスを育むことが、子どものウェルビーイングの実現に重要であると言えます。

◆レジリエンスが高いほど、子どものウェルビーイング得点が高くなっています。図1-2は、8か国データの中から日本のデータを抽出して分析した結果です。

<用語の定義と尺度>

ウェルビーイング:心身の良好な状態、幸福。本調査では、QOL(Quality of Life=生活の質)を広く測定するKINDL尺度(Ravens-Sieberer & Bullinger開発)を使用した。
レジリエンス:困難な状況に適応して回復する力。本調査では子どものレジリエンスを測るPMK-CYRM-R尺度(カナダのResilience Research Centre開発)を使用した。

  ■図1-1 子どものウェルビーイングとレジリエンスの関連

図1_1.JPG

両者の相関係数は、日本0.630、中国0.679、フィリピン0.468、マレーシア0.473、台湾0.659、
インドネシア0.616、シンガポール0.691、タイ0.523(いずれも、p<0.001)

  ■図1-2 【日本】レジリエンスの高さ別の子どものウェルビーイング得点

図1_2.JPG

※レジリエンス3群:レジリエンスに関わる17項目(PMK-CYRM-R尺度を使用)を得点化して足しあげ、分布をもとになるべく均等に高群・中群・低群の3群に分割。

※ウェルビーイング得点:ウェルビーイングに関わる24項目(KINDL尺度を使用、「ぜんぜんない」1点~「いつも」5点)を合計して、項目数で割った数値(1~5点に分布)。上記では各群(レジリエンス高中低)の平均点を算出した。

2.日本では、①母親の応答的な養育態度、②母親の子育て肯定感、③園(保育者)のサポート、④デジタルメディア使用時の母親のサポート、⑤遊べる友達の数が、子どものレジリエンスに関連

◆上記①~⑤の各項目を高群・中群・低群に分けて群ごとに子どものレジリエンス得点を比較すると、高群の方がレジリエンス得点が高いという結果が得られました。

 ■図2【日本】子どものレジリエンスに関連する5項目

図1_3.JPG図2_1・2.JPG

図2_3・4.JPG

3.日本以外でも多くの国で、①母親の応答的な養育態度、②母親の子育て肯定感、③園(保育者)のサポート、④デジタルメディア使用時の母親のサポートは、子どものレジリエンスに関連

 ◆①母親の応答的な養育態度と③園(保育者)のサポートは日本を含む5か国で、②母親の子育て肯定感と④デジタルメディア使用時の母親のサポートは日本を含む4か国で、子どものレジリエンスに関連していました。

 ■表1 レジリエンスに関連する項目(各国にて子どものレジリエンスに関連する項目に〇)

表1.JPG

【まとめと考察】

 子どものウェルビーイングが大事であることはいつの時代も変わりありませんが、コロナ禍が続く現在、その実現には格段の心配りが必要だと考えられます。今回の調査では、子どものウェルビーイングにレジリエンス(困難な状況に適応して回復する力)が関連していることが明らかになりました。この結果は、対象としたアジア8か国のすべてで共通しています。コロナ禍のような困難な状況で子どものウェルビーイングを実現するには、レジリエンスを育むことが重要だと言えます。
 それでは、レジリエンスの向上につながるのは、どのような要因なのでしょうか。日本では、①母親の応答的な養育態度、②母親の子育て肯定感、③園(保育者)のサポート、④デジタルメディア使用時の母親のサポート、⑤遊べる友達の数が、子どものレジリエンスに関連していました。さらに、①~④については、日本以外でも多くの国で同様の結果になりました。つまりこれらは、子どものレジリエンスを育むにあたり、共通して重視すべき項目だと考えられます。子どものレジリエンスを育むには、子どもにとってもっとも身近な存在である「家庭(保護者)」と「園(保育者)」の両輪でのサポートが重要であると言えそうです。
 コロナ禍は3年目に入りましたが、子どもたち一人ひとりの健やかな成長・発達のためには、身近にいる保護者や園(保育者)のサポートがカギとなります。本調査の結果が、保護者のみなさまや幼児教育・保育にかかわるみなさまに少しでも役立つことを願っています。

【調査概要】

名称 子どもの生活に関するアジア8か国調査2021
調査テーマ アジア諸国にみる「ハッピー&レジリエントな子どもをどう育むか」
調査時期 2021年8月~11月
調査方法 アンケート調査(オンライン/質問紙) ※国により異なる
調査対象

●アジア8ヶ国(日本、中国、フィリピン、マレーシア、台湾、インドネシア、シンガポール、タイ)の都市部および近郊に住む、5歳(園児)の子どもがいる母親全1,973名
●8ヶ国の内訳
表1-1.JPG

※PHL=フィリピン、MYS=マレーシア、IDN=インドネシア、
SGP=シンガポール、THA=タイ

調査項目

子どものレジリエンス/子どものウェルビーイング/母親の養育態度・子育て意識/母親の生活満足度/園(保育者)のサポート/母親の家事育児分担率/配偶者サポート/子どものデジタルメディア活用実態/デジタルメディア活用時の母親のかかわり/子どもの日常的な時間の使い方/子どもの遊びの状況/コロナにかかわる状況 など

本調査企画・分析メンバー

●プロジェクト代表者
 榊原 洋一(チャイルド・リサーチ・ネット所長、医学博士、お茶の水女子大学名誉教授)
●プロジェクトメンバー
 小川 淳子・持田 聖子・佐藤 昭宏・木村治生・劉 愛萍・大森 英恵
(以上、チャイルド・リサーチ・ネット/ベネッセ教育総合研究所)
●アジア8ヶ国の共同研究者(各国代表)
 日本:佐藤 朝美(愛知淑徳大学教授)
 中国:周 念麗(華東師範大学教授)
 フィリピン:テルマ・ミンゴア(デ・ラ・サール大学助教授)
 マレーシア:アミナ・アヨブ(スルタン・イドリス教育大学名誉教授)
 台湾:洪 福財(台北教育大学教授)
 インドネシア:ソフィア・ハルタティ(ジャカルタ国立大学教育学部長)
 シンガポール:クリスティン・チェン(シンガポール幼児教育者学会代表)
 タイ:サシラック・カヤンキジ(チュラロンコン大学准教授)


【チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)について】

CRN_logo.png

CRNは、世界の子どもを取り巻く諸問題を解決するために、従来の学問分野を越えた学際的な研究や国内外の子育て情報等を収集し、日本語・英語・中国語の3言語のウェブサイトで発信する「子ども学」研究所です。
近年はウェブサイト以外でも、アジア諸国の研究者からなるCRNA(Child Research Network Asia)を組織し、子どものウェルビーイングを目的とした国際共同
研究を推進しています。
URL:https://www.crn.or.jp/

<CRN所長:榊原 洋一プロフィール>

所長PHOTO.png医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。
主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よく
わかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。

【詳しいデータのご紹介】

●CRNのホームページからも、本資料と調査結果をまとめた「集計表」などをダウンロードできます。QRC.png
 ここに紹介した以外のデータはこちらをご覧ください。
 また各国の共同研究者によるカントリー・レポートもご確認いただけます。
 https://www.blog.crn.or.jp/crna-research-activities.html

最終更新日:2022年08月30日