ベネッセ教育総合研究所「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」 母親・父親ともに8割前後が「子育て・家事は夫と妻で同等がよい」に賛成 一方で、その半数以上は「実際には難しい」と回答
保護者が求めるのは、①父親が家事・子育てに参加しやすい職場の制度や環境
②子どもを安心して預けられる園における保育の質の確保
必要なのは、社会全体で子育てを応援する風潮の醸成
株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2023年3月に、国内に住む0~6歳(未就学児)の第一子をもつ母親・父親各2,891名を対象に、「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」を実施しました。本調査は、現代の保護者が、少子化や共働き世帯の増加などの社会環境の変化の中で、ライフキャリア*1をどのように捉えているか、また子育てやキャリアの悩み、妊娠・出産・子育てへの支援ニーズの実態把握を目的としています。子育てや保育にかかわる方々のみならず、広く社会全体で子どもやその家族へのより良い支援のあり方を考えるための情報としてご活用いただきたく、分析結果をご報告します。結果は以下のとおりです。
*1.ライフキャリア・・・職業生活だけでなく、人生・生き方・個人の生活全般における役割を視野にいれた広義のキャリア。本調査では、乳幼児の保護者世代の主要な役割として「親」「家庭人」「職業人」「個人」を取り上げた。
職業の有無による分析で使用する属性についての補足: ※母親、父親は、夫婦ペアデータではない。
■母親の属性について:
有職母親:本人の職業について、調査時点で「正社員・正職員」、「パートタイム・アルバイト」、「契約社員・嘱託」、「派遣社員」、「自営業(家族従業者を含む)・フリーランス」と回答した人(1,317名)
無職母親:本人の職業について、調査時点で「無職(専業主婦/主夫等)」と回答した人(1,153名)
■父親の属性について:
無職の父親は、本調査データでは17名と少ないため、本人の職業は有職のみを対象とした。調査時点で「正社員・正職員」、「パートタイム・アルバイト」、「契約社員・嘱託」、「派遣社員」、「自営業(家族従業者を含む)・フリーランス」と回答した人を有職とする。母親の就業状況で父親のかかわりかたが関連するという仮説の下、母親の職業の有無別で分けた。
有職父親(母親は有職):有職の父親の内、母親(妻)が有職である人(2,053名)
有職父親(母親は無職):有職の父親の内、母親(妻)が無職である人(566名)
※母親・父親とも「休職中」は、「有職」「無職」いずれにも含まない。
■回答者の年齢分布と平均年齢:
母親 33.9歳
父親 37.8歳
1.職業の有無別・性別役割分業に対する考え
「妻の就業の有無にかかわらず、家事・子育ては、夫と妻が同等にするほうがよい」について、母親・父親ともに8割前後が賛成(「よいと思う」)しているが、その半数以上は「よいと思うが、そうするのは難しい」と回答(図1)。特に、無職母親と、有職父親(母親は無職)は、全体の5割前後が「よいと思うが、そうするのは難しい」と回答。
Q.「性別による役割観」に対するあなたのお考えについてお伺いします。
図1.妻の就業の有無にかかわらず、家事・子育ては、夫と妻が同等にするほうがよい(職業の有無別)
2.子育てや家事の分担
職業の有無にかかわらず、実際の育児・家事分担比率は、母親に大きく偏っている。
有職母親の49.1%、無職母親の70.1%は、子育てを自分が「8割~10割」担っていると回答(図2)。一方、有職父親(母親は有職)の場合50.0%、有職父親(母親は無職)の場合67.7%が子育てを「0割~3割」担っていると回答(図2)。家事についても同様の傾向(図表省略)。
Q.子育てや家事について、あなたが分担している比率をお答えください。(0割~10割を選択)
図2.子育ての分担比率(職業の有無別)
3.ライフキャリアの4つの役割意識:理想と現実
①「親としての自分」「家庭人としての自分」の役割意識は、母親は理想より現実の方が高く、特に無職母親に顕著である(図3-1)。一方、父親は、「職業人としての自分」の役割意識が、理想より現実の方が高く、母親(妻)が無職の場合、より高い。
Q.あなたの中で以下の4つの役割は現在どれくらいの重みを持っていますか。全体の合計を10とした時のそれぞれの役割の配分を
0~10の数値(整数)でお答えください。
図3-1.ライフキャリアの4つの役割意識の平均値(職業の有無別)
②子育てやキャリアの悩みについて、「子どもと長く一緒にいることで疲れることがある」については、父親より母親の方がそう感じる頻度が高く、特に無職母親が高い傾向にある(図3-2)。「子どもを預かってくれる人を見つけるのが難しい」について、無職母親の頻度がより高い(図3-3)。また、「家庭のこと(子育てや家事等)と両立できる条件の仕事を見つけるのが難しい」について、無職母親の8割が「よくある+時々ある」と回答し、有職母親よりも高い(図3-4)。有職父親も6割がそう感じている。父親は、母親に比べて、「子どもと過ごす十分な時間がとれない」という悩みの頻度が高い(図3-5)。
Q.現在のあなたの状況について、以下のような悩みを感じることはどのくらいありますか。
図3-2. 子どもと長く一緒にいることで疲れることがある(職業の有無別)
図3-3.子どもを預かってくれる人を見つけるのが難しい(職業の有無別)
図3-4. 家庭のこと(子育てや家事等)と両立できる条件の仕事を見つけるのが難しい(職業の有無別)
図3-5.子どもと過ごす十分な時間がとれない(職業の有無別)
4.子育てへの支援・環境整備への期待
妊娠・出産・子育て支援への期待として、母親の第一位は「子どもを安心して預けられる園における保育の質の確保」、父親の第一位は「父親が家事・子育てに参加しやすい職場の制度や環境」と回答(図4)。
なお、「とても期待する」の回答でみると、母親・父親ともに第一位は「子どもの医療費の軽減、無償化の取組(母親59.1%,父親38.7%)」、第二位は「子育てや教育にかかる費用の支援、軽減(母親55.7%,父親36.7%)」と、経済的な支援・軽減への期待が高い。
Q. あなたは、妊娠・出産・子育てにあたって、どのような支援や環境整備があることを期待しますか。
5.子育て観や仕事観、性別による役割観に影響を与えている人や環境
母親・父親の子育て観や仕事観、性別による役割観に影響を与えている人や環境の上位は、「配偶者/パートナー」、「自分の親」、「配偶者/パートナーの親」などの親族だが、母親の約半数は「世の中の風潮や常識」と回答(図5)。
母親・父親ともに最も影響を与えているのは「配偶者/パートナー」で、次いで「自分の親」が高い(「とても与えている」+「まあ与えている」の合計%)。第三位は、母親・父親で異なり、母親は「世の中の風潮や常識」、父親は「配偶者/パートナーの親」。
Q. 以下の人や環境は、あなたの子育て観や仕事観、男女の役割観にどのくらい影響を与えていますか。
【考察】
本調査では、未就学児の第一子をもつ母親、父親のライフキャリアにおける役割観や子育ての意識・実態について調べました。「妻の就業の有無にかかわらず、家事・子育ては、夫と妻が同等にするほうがよい」に対して父母ともに8割前後が賛成しているにもかかわらず、その半数以上が「よいと思うが、そうするのは難しい」と回答しました。実際に、子育てや家事は、就業の有無にかかわらず、母親が多くを担っており、母親の親や家庭人としての役割意識は、理想より現実が上回り、その傾向は無職母親に顕著でした。また、無職母親は「子どもと長く一緒にいることで疲れることがある」、「子どもを預かってくれる人を見つけるのが難しい」について有職母親よりも高い頻度で感じており、子育てに専念することの大変さがうかがわれました(結果1~3より)。
では、どうしたら、母親・父親が願っている通り、子育てや家事を夫婦で共に担い、働きたい人は働けるような環境が実現するのでしょうか。一つは、子育て支援制度の改革や環境整備などの仕組みのさらなる充実です。本調査でも、母親の期待の第一位は「子どもを安心して預けられる園における保育の質の確保」でした。現在、「こども誰でも通園制度(仮)」の試験的な取り組みが始まっています。前述のとおり、無職母親は、子どもと長時間過ごすことでの疲れや、子どもを預かってくれる人を見つける困難さを感じていますが、預け先の拡充はその解消にもつながることが期待されます。また、父親の子育てに対する支援の期待の第一位は、「父親が家事・子育てに参加しやすい職場の制度や環境」であり、「子どもと過ごす十分な時間がとれない」という悩みが、母親よりも多くなっています。父親の労働時間への負担を軽減し*2、子育てや家事にもっと参画しやすくなるような職場におけるさらなる制度改革や環境整備が期待されます(結果4~5より)。
仕組みや制度の充実は進んでいますが、果たしてそれだけで子育てを取り巻く問題は解決するでしょうか。本調査では、子育て観や仕事観、男女の役割観に影響を与えている人や環境の第一位は「配偶者/パートナー」でした。まず、配偶者/パートナー同士で、互いの価値観や希望を話し合うこと、専門家や、学生時代の友人等、周囲の例からも役割分業の良い事例を取り入れてみることが重要ですが、当事者や親族だけで現状を変えることは困難です。本調査では、「世の中の風潮や常識」からも子育て観や仕事観、男女の役割観の影響を受けていることが明らかになりました。政府も、「社会全体の構造・意識を変える」ことを、こども・子育て政策の基本理念のひとつにあげていますが*3、社会を構成する私たち一人ひとりが、性別による役割観や子育てに関する考え方を見直し、社会の風潮・常識を変えていく意識が必要ではないでしょうか。
*2. 内閣府が掲げた父親の家事・育児時間150分の時間を確保するには、仕事と通勤を合わせて9.5時間未満にする必要がある。大塚美那子・越智真奈美・可知悠子・加藤承彦・新村美知・竹原健二「末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間」厚生の指標Vol.68 No.15, 2021/12, 24-30.
*3.内閣官房 こども未来戦略方針 kakugikettei_20230613.pdf (cas.go.jp)
<調査概要>
ベネッセ教育総合研究所のホームページからも、本リリース資料や詳細データをダウンロードできます。
https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=5882
【調査の結果を受けて】
福丸 由佳 (白梅学園大学 教授)
まず目を引くのは、「妻の就業の有無にかかわらず、同等に家事・子育てを」に肯定的な父母が7割を超えること、同時にその難しさを多くの保護者が感じている現状です。また「妻が有職でも育児の7割以上は母親」という世帯が約半分というのも際立ちます。これに関連して、多くの父親が期待する支援の一つは、子育て(両立)しやすい職場の制度や環境です(図4)。待ったなしの子育てに、母親も日々やりくりしているのだから...、とつい思いがちですが、一方で、たとえば「保育園のお迎え」「子どもが熱を出した」と聞いてまず思い浮かべる対象は、圧倒的に「母親>父親」ではないでしょうか。こうした周囲のジェンダー観が、知らず知らずのうちに父親の子育てへのハードルを高くし、また母親の負担の高さにもつながっていくとも考えられます。パートナーや親の存在に次いで、社会の風潮や常識も父母の価値観に影響を与えるという図5の結果からもそのことが伺えます。
コロナ禍の2020年春、児童福祉法等一部改正に伴い、親から子どもへの体罰がようやく禁止されるに至りました。体罰によらない子育てはこうしたルールと共に、保護者の子育てをしっかり支えることとの両輪で成り立ちますが、そのキャッチフレーズ(一般応募から決定)は、「みんなで育児を支える社会に」です。平凡で当たり前に思えることがいかに大切で、かつ容易でないかを示しています。
子どもを預かってくれる人が見つかりにくく(図3-3)、ママ友・パパ友などのコミュニティーの存在が相対的に低下している可能性も示されています(図5、母親では該当なしも約2割。今後を見守りたいところです)。子育てを保護者や家族だけに任せるのではなく、地域のつながり作りも引き続き課題です。仕事の有無にかかわらず父母それぞれが自身のライフキャリアを大切にできるためにも、子育て世代を取り巻く私たち大人のまなざし、そして社会のありようが改めて問われているでしょう。
大野 祥子 (白百合女子大学 非常勤講師)
母親・父親とも7~8割が「妻の就業の有無にかかわらず、夫婦が家事や子育てを同等に行うこと」に肯定的であるにもかかわらず、子育てや家事の分担が母親に偏っている現状は、子育ての理想と現実にギャップがあることをあらわしています。図4からは、保護者たちが子育て費用面での支援と並んで、子育てと仕事の両立を支える制度や環境の保障を求めていることが読みとれます。図1の問いに「よいと思うが、そうするのは難しい」と回答した人たちがどのような点に難しさを感じているのかを掘り下げていくと、「よいと思う」状態の実現を阻んでいるものが明らかになり、理想の状態に近づくヒントが見えてくると期待されます。
図5では、配偶者/パートナーや双方の親など、身近な家族・親族に次いで「影響を与えている人や環境」として、「世の中の風潮や常識」――特定の人ではなく、抽象的な"空気"があげられた点が目を引きます。2022年の「国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると0~6歳の子どものいる世帯は全世帯の7.4%で、今や乳幼児を育てる世帯は社会のマイノリティといっても過言ではありません。未婚率が上昇し、結婚や子育てを経験しない人生を送る人が増えたことで、「子育ては、子どもを産み育てると決めた保護者自身や家族の責任で行うべき」とする風潮が生まれ、それが保護者たちにプレッシャーとなっているのかもしれません。人類の子育ては、保護者以外にも多くの人が子育てに関わるアロペアレンティング(共同養育)が進化的に見て理にかなっているといわれます。子育て中の保護者をサポートする制度の拡充だけでなく、子育ての当事者ではない人々の子どもや子育て対する関心を高め、世の中の"空気"が子育てに対してあたたかいものになるような支援策が求められるでしょう。