教育

株式会社ベネッセホールディングス

代表取締役社長CEO 小林 仁

ベネッセ、慶大・宮田裕章教授・立森久照特任教授と共創活動を開始 データを活用して学びの進化をめざす、第一弾の活動結果報告 小4-中2の学習行動と学力の関係を分析 振り返りの力の大切さなどが明らかに

 株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林 仁)は、慶應義塾大学医学部の宮田裕章研究室と共創プロジェクトを開始しました。「一人ひとりが多様な価値観を持ち、その個性が響き合う社会の実現」を目的に、データ活用によって多様な価値を可視化し、一人ひとりに寄り添う、新しい学びのしくみをつくることを目指します。

【共創プロジェクトの背景】

 ベネッセコーポレーションでは、進研ゼミや進研模試、ミライシードといった様々なサービスをご提供しており、データを商品開発に活かして、サービスを進化させるとともに、そこから得られる教育知見をどのように社会還元できるかを模索してまいりました。一方で、宮田教授はデータ活用による社会変革に取り組まれており、最近では「不確実な時代に『生きる力』を養うこと」をテーマにしたCo-Innovation University(仮称)の設立をリーディングされるなど、新しい形の教育に関心を持たれています。また立森教授は統計的な専門知見をもとに、多様な力を可視化し、一人ひとりの成長に寄り添える仕組みづくりに関心を持たれています。このような関心の一致のもと、共創プロジェクト発足に至りました。AIの技術進展も日々進むなかで、学びの可能性を広げ、誰もが、自分らしく、わくわくしながら、成長できるしくみづくりにも、チャレンジしてまいります。

【第一弾活動について】

 この度、共創プロジェクトの第一弾として、「進研ゼミ」を継続して受講いただいた受講生について、学力の推移を明らかにし、さらには学力向上のポイントを見つけることを目的として、活動を進めて参りました。主な結果は、以下の通りです。

 1.学習力の設問で肯定的な回答を選んだ対象者は、学力テストの得点が高い傾向が見える。

学習力の設問に対し、「とても」「まあ」といった肯定的な回答を選んでいる対象者は、「あまり」「全然」といった否定的な回答を選んでいる対象者より、算数/数学の学力テストの得点が高い傾向にあった。

 2.偏差値向上群と停滞群の比較分析により、振り返りの力の大切さが見える。

学力が相対的に低い状態から学力が伸びた集団は、中学 2 年生時でも偏差値が相対的に低い状態のままであった集団と比べて、「学習が終わったら自分で丸つけをし、解き方や考え方を確かめている」「間違えたところは、つまずいたポイントを意識しながら解き直している」「自分の苦手な教科や分野を理解し、苦手なところも取り組んでいる」という項目で、「とても」「まあ」といった肯定的な回答を選ぶ選択率で有意な差があった。たとえ当初は算数/数学の学力が高くなくてもそれを挽回するためには、解き直しや苦手なところへの取り組みなど、振り返りの力をつけるような支援が効果的である傾向が見えた。

 本活動では、小学4年生から中学2年生までの時系列で、学習行動と学力の関係を分析することで、振り返りの力の大切さなどが明らかになってまいりました。今後はさらに、今回見えてきたポイントである振り返りの力を身につけるサポートがどのようにできるかなどについても、深めていきたいと考えています。

【分析結果詳細について】

■目的について
 2015年度から2019年度にかけて、進研ゼミ小学講座「チャレンジタッチ 4年生」「チャレンジタッチ 5年生」「チャレンジタッチ 6年生」、進研ゼミ中学講座「中一講座 ハイブリッドスタイル」「中二講座 ハイブリッドスタイル」(以下、「当該コース」)を継続していた受講生について、進研ゼミ「実力診断テスト」「実力診断マークテスト」(以下、「学力テスト」)の偏差値を指標にして学力の推移を明らかにし、さらには学力向上のポイントを見つけることも目的とした。また、学力と自記式アンケートによる学習力の関連も分析し、特に学力が伸びた集団での学習力の特徴を明らかにすることで、学習方法のポイントを見つけることも目的とした。

■対象について
 本レポートの分析対象は、下記を条件とした1,412人である。ただし、テスト以外の変数においては欠測が存在するため、必ずしも全ての分析で分析対象の人数は一致しない。なお、今回の対象者において、2015年度は小学4年生、2019年度は中学2年生の講座受講生に対応する。

・2015年度から2019年度の5年間、当該コースに継続して在籍していた。
・上記の5年間、毎年8月の学力テストを受検していた。
・学力テストの難易度や選択肢回答という形式上、1つでも0点を取った受検生は除いた。

 なお、対象の抽出条件から学力テストに欠測は生じないが、学習力の回答には欠測が発生する。欠測は欠測をカテゴリとして扱い分析に含めるか、ペアワイズ除去で解析を行った。統計学的な仮説検定は全て両側検定で有意水準は0.05に設定した。

■使用データについて
◎学力テストのデータについて
算数(中学1年生と中学2年生時は数学)の学力テストの得点を利用した。本レポートの分析で用いる偏差値は、各時点で学力テストを提出した全受検生の平均値と標準偏差を利用して算出した。つまり、本レポートの対象者内での偏差値ではなく、各時点で学力テストを提出した全受検生の偏差値を用いたことになる。

◎学習力アンケートのデータについて
学習力は学力テストと一緒に提出される自記式アンケートの回答に基づいた。今回は小学4年生時と中学2年生時のアンケートを対象とした。小学4年生時と中学2年生時では質問や選択肢に差異がある。小学4年生時のアンケート内容は下記である。各設問の選択肢は「とても」を「1」、「まあ」を「2」、「あまり」を「3」、「全然」を「4」とする4件法である。

1. 問題をとくことがおもしろい
2. 「どうして」「なぜ」かを考えながら勉強する
3. むずかしい問題もあきらめずにがんばる
4. 自分で1週間程度の学習の予定を決めている
5. 自分で決めた時間になったら、進んで勉強している
6. 勉強が予定どおりに進んでいないときがあれば、自分で工夫して、立て直している
7. 勉強が終わったら自分でまるつけをしている
8. まちがえたところは、とき直して次はまちがえないようにしている
9. わからないところは、解答・解説を読むなどして、わかるようにしている

 つぎに、中学2年生時のアンケート内容は下記である。各設問の選択肢は「とてもあてはまる」を「1」、「まああてはまる」を「2」、「あまりあてはまらない」を「3」、「まったくあてはまらない」を「4」とする4件法である。

1. 定期テストに向けて、やるべきことを洗い出し、目標を決めて学習している
2. 定期テストに向けて、2週間前までに計画を立てて学習している
3. 定期テストの学習が、計画通りにうまく進んでいなければ、調整している
4. 日々の学習について、自分でいつ、何を、どれだけ学習するかを決め、時間になったら取り組んでいる
5. 平日、休日、部活の有無など自分の生活にあわせて、学習する時間を決め、学習するときには集中して勉強する
6. 学校の宿題や提出物、小テストの準備など学校の学習に関わることを、生活のリズムをコントロールして、やりきれている
7. 学習が終わったら自分で丸つけをし、解き方や考え方を確かめている
8. 間違えたところは、つまずいたポイントを意識しながら解き直している
9. 自分の苦手な教科や分野を理解し、苦手なところも取り組んでいる

■学習力と学力の関係分析について

 学習力の設問単位で、肯定的な回答(選択肢1と2)をした者を「高学習力」、否定的な回答(選択肢3と4)をした者を「低学習力」の集団として、両者の学力テストの平均得点を棒グラフで可視化した。
 まず小学4年生時の結果を図1に示した。ここでは算数の学力テストの得点を示した。高学習力の集団は、低学習力の集団よりも算数の学力テストの得点が高い傾向にあった。特に「1. 問題をとくことがおもしろい (p=0.006)」、「2. 『どうして』『なぜ』かを考えながら勉強する(p<0.001)」、「3.むずかしい問題もあきらめずにがんばる(p<0.001)」、「5. 自分で決めた時間になったら、進んで勉強している(p=0.012)」、「6. 勉強が予定どおりに進んでいないときがあれば、自分で工夫して、立て直している(p<0.001)」,「7. 勉強が終わったら自分でまるつけをしている (p=0.020)」,「8. まちがえたところは、とき直して次はまちがえないようにしている(p<0.001)」,「9. わからないところは、解答・解説を読むなどして、わかるようにしている(p<0.001)」 の8項目で高学習力の集団が低学習力の集団よりも有意に算数の平均得点が高いという結果が得られた。
 つぎに、中学2年生時の結果を図2に示した。こちらでも高学習力の集団は、低学習力の集団よりも数学の学力テストの得点が高い傾向にあった。全ての設問で高学習力の集団と低学習力の集団の平均得点の差は統計的に有意であり、学習力の設問で肯定的な回答を選んだ対象者は、学力テストの得点が高い傾向が見えた。

図1:小学4年生時の学習力と学力の関係

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図2:中学2年生時の学習力と学力の関係

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■算数/数学における偏差値向上群と停滞群の比較分析について
 学力が相対的に低い状態から学力が伸びた者の学習力の特徴を明らかにできれば、学力を挽回するためのヒントになると考え、偏差値向上群と停滞群の比較分析を行った。小学4年生時の算数の偏差値の四分位値を用いて対象者を4分割し、中学2年生時の数学でも同様の分割を行った。偏差値グループ1を最も偏差値が高いグループとし、偏差値グループ4を最も偏差値が低いグループとした。なお、四分位値と一致する偏差値の受検者が複数いるため、グループの構成人数は均一ではない。そして、小学4年生時に偏差値グループ4にいたが、中学2年生時には偏差値グループ1または2にいた者(以下「向上群」)を特定し、小学4年生時、中学2年生時のいずれにおいても、偏差値グループ4にいた者(以下「停滞群」)と学習力を比較した。
 つぎに、小学4年生時の向上群と停滞群の学習力の比較を、選択肢1,2の選択率を比較することで行った。結果を図3に示した。統計学的な仮説検定の結果で、全ての学習力の項目で両群に有意な違いはなかった。
 つづいて、中学2年生時の向上群と停滞群の学習力の比較を行った。結果を図4に示した。「1. 定期テストに向けて、やるべきことを洗い出し、目標を決めて学習している (p=0.002)」、「6. 学校の宿題や提出物、小テストの準備など学校の学習に関わることを、生活のリズムをコントロールして、やりきれている (p=0.002)」、「7. 学習が終わったら自分で丸つけをし、解き方や考え方を確かめている (p=0.012)」、「8. 間違えたところは、つまずいたポイントを意識しながら解き直している (p=0.004)」、「9. 自分の苦手な教科や分野を理解し、苦手なところも取り組んでいる (p<0.001)」の5項目で向上群が停滞群よりも有意に学習力が高いという結果が得られた。また学習力の他の項目では有意な違いはなかった。偏差値向上群と停滞群の比較分析により、「7」「8」「9」の設問で有意差があったことから、振り返りの力の大切さが見えた。

図3:小学4年生時の向上群と停滞群の学習力の比較

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図4:中学2年生時の向上群と停滞群の学習力の比較

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【分析監修者からのメッセージのご紹介】

 宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部教授)

多様な価値観を尊重しながらこれからの社会で充実した人生を築いていくには、学ぶ力を育むことが重要だと考えています。義務教育の間に基礎的な学力をつけるだけでなく、学ぶ力、そして好奇心を持って広い意味での学びを一生楽しんで続けられる力をつけるための手がかりを、この活動を通じて得られればと思っています。

 立森 久照(慶應義塾大学 医学部特任教授)

つまずきがあっても挽回が可能なこと、そのために振り返りの力をつけることが鍵になる可能性がわかりました。これを知れたのは小学 4 年生から中学 2 年生までの長期間のデータを分析できたおかげです。学力も大事ですが、それよりも広い意味での学びを続けることが出来る姿勢を育むことが子ども達の人生を豊かで実り多いものにすると思います。子ども達のそうした学びを支えるために、蓄積された貴重なデータをもっと活用していきたいと思います。

【プロジェクト体制について】

プロジェクト体制 ●分析監修者
宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部教授)
立森 久照(慶應義塾大学 医学部特任教授)
●メンバー(企画,実務など担当)
橋本 英知・國吉 啓介・関口 雅啓・岡本 卓也・佐藤 大和
(以上、ベネッセコーポレーション)

最終更新日:2023年04月18日