BBM障がい者雇用 TAMATEBAKO ~障がい者雇用の未来をそだてるために~
BOX5 チャレンジドハウスキーピングシステムの導入①
文責: 今野雅彦
グループ雇用推進本部 特命担当部長
2020年1月に日本人新型コロナウィルス感染者が初めて確認されてから早2年。今もなお予断を許さない状況が続いています。政治、経済は混乱し、庶民の暮らしにも大きな影響を与え、コロナ以前とでは生活のあり様が大きく変わってしまいました。
テレワーク等の導入が一気に進んだおかげで企業の出勤率は極端に減少し、当然のように障がい者の働く環境も大きく様変わりしました。特に清掃業務は、多くの会社において「人が来ないから汚れない。汚れないから清掃はいらない。」という理屈で、障がい者の働く現場が縮小され、あるいは壊滅の危機にあるとさえ言われる状況です。これは、障害者雇用の本質を問いかける出来事にもなっています。
一方で、BBMでは2021年9月から、多摩本社のクリーンサービス課の清掃業務に"チャレンジド・ハウスキーピング・システム(以後CHKS)"を導入しました。これは、これまでの清掃の考え方を根本から変えるもので、これからの時代にマッチした「衛生管理」を主軸とした画期的な清掃の"システム"です。障がい者に限らず誰にでも同じようにできる「しくみ」なので"システム"と呼びます。
CHKSの歴史は1980年代に遡ります。今回のコロナ感染に対応してにわか仕込みで出来上がったものではなく、"ホスピタルグレード"という考え方のもとに、試行錯誤を繰り返しながら確立してきたものが、今まさに脚光を浴びていると言うことができるでしょう。また、BBMがその流れに乗ってCHKSを取り入れたということでもなく、BBMが長年取り組んできた「楽ジョブ」※という考え方とCHKSとの親和性により、「時期を得た」ということができます。
※「楽ジョブ」とは、「仕事を楽にしよう、仕事を楽しくしよう」という取り組み。複雑で難易度の高い業務の工程・設計を見直し、さまざまな特性をもった障がいのある社員が働きやすいユニバーサルでシンプルな業務に変えていくこと。
今回はCHKSの成り立ち~変遷、そしてBBMで導入したきっかけ、そして導入後の状況についてご紹介していきます。
①チャレンジドハウスキーピングシステムとは
■チャレンジドハウスキーピングシステムの定義
CHKSの"チャレンジド"は「障がい者。狭義には,仕事などによって積極的に社会参加を果たそうとする障がい者のこと。障がい者を社会の保護対象としてではなく、社会の参加者としてとらえるもの」と定義されています。特例子会社の中にも社名に冠している会社があるように、一人の人間として、社会の参加者として捉える考え方がその底流にあります。
"ハウスキーピング"はもともと英語で家事や家計、家政といった意味の言葉ですが、ホテルその他の宿泊施設においては、客室の清掃や整備を行い、ゲストが心地よく過ごせる状態に整える仕事のことを指す場合が多いようです。 宿泊施設にとって何よりも重要な商品である「客室」を、ゲストに提供する手前でチェックし、最適な環境に整える、非常に重要な仕事という意味で使われています。
BBMにとっては、お客様(グループ会社の社員)が心地よく過ごせる状態に整えるクリーンサービスのお仕事そのものと捉えることが出来るでしょう。
■CHKSの根幹にあるもの
この"システム"の根幹をなすものは三つあると言われています。
①障がい者(チャレンジド)が協力して共にタスク(仕事)を行う〔協働〕、つまり障がい者が孤立することなくチームで行動すること
②ホスピタルグレード(病院における清掃レベル)の清掃品質による衛生状況を確保し、環境感染防止を実現させること
③失敗させない、失敗しない(合理的配慮による)特別な手順と道具を用いる"システム"であること
この三つはとても重要な考え方で、比較的重度の障がいがある人でも、その人の個性や強みを活かすことにより、立派に役割を果たすことができる"システム"がここには厳然と存在しています。
失敗しない道具(BBMで活用しているもの)
■CHKSの成り立ち
この清掃の考え方は、もともと欧米の病院清掃に由来するものです。
1992年に、米国で病院清掃を習得した足立氏(現 一般社団法人チャレンジドハウスキーピング協会理事長)により日本に紹介されました。ホスピタルグレードという言葉に馴染みのない方も多いと思いますが、米国CDC(アメリカ疾病予防管理センター※1)のガイドラインに則った清掃の品質を指しています。非常に高度な洗浄能力と消毒機能を求められ、かつ薬品の残留値が厳しく制限されています。現在、洗浄剤は国際宇宙ステーションにも使用されているカナダ・バイロックス社の製品(加速化過酸化水素除菌洗浄剤)を使用しています。その理由は99.9999%の除菌洗浄能力があり、かつ米国EPA(アメリカ合衆国環境保護庁※2)の安全効果試験で薬品の残留基準をクリアした極めて強力で安全なケミカルなのです。
日本でいち早く、米国のサニテーションシステムにより、ホスピタルグレードのEPA登録消毒洗剤を使用した清掃を導入したのは、医療法人社団の老人保健施設(東京都文京区)でした。1996年の開設とともに清掃業務を開始しましたが、当時はまだ障がい者による清掃ではなく、ケミカルも米国・ブッチャー社のEPA登録製品を使用していました。その後2004年になると、同施設に清掃要員として障がいのある人が入職して、CHKSの原型(ホスピタルグレード品質を障がい者の清掃に適用する活動)がスタートしました。
2009年に東京都練馬区の社会福祉法人が運営する障がい者施設の清掃業務に取り入れたことで、清掃業務に携わる障がい者の可能性は大きく広がりを見せました。翌2010年には埼玉県和光市の社会福祉法人が、老人介護施設において障がい者を採用し、CHKSとして清掃業務を開始します。更に2011年には、こうした取り組みにより、東京都板橋区の社会福祉法人の要請で、障がい者と指導員への清掃指導を開始。その後板橋区内でCHKSを取り入れる施設が次々に誕生していきました。
■CHKSが特例子会社、特別支援学校に拡大
2012年になると、東京都板橋区の社会福祉法人と障がい者雇用を模索していたNTTドコモのグループ会社との接点が生まれました。ここで2013年の春からCHKSを導入し、同社の障がい者雇用を発展的に継承する形で2015年に設立された株式会社ドコモ・プラスハーティにおいても6つの事業所が導入しています。
2013年から導入を進めてきた業務運営部の幹部の方は、
「CHKSでは、目に見える汚れを除去する清掃と、目に見えないものを相手にする除菌が同時に行えるところに最大の特徴があると考えます。この除菌が感染症対策としての付加価値となっていることで、自分たちの仕事はグループの人たちの健康を守ることにつながっているのだというやりがいをも生み出しているのだと思います。」と語っておられます。
株式会社ドコモ・プラスハーティに続いて、複数の特例子会社が導入または導入を検討しています。一人ひとりの特性に合わせた配置が可能で、チームで作業することにより効率を高めることができ、そしてホスピタルグレードの清掃品質をめざすことで、メンバーが仕事に誇りをもって取り組めるからでしょう。
特例子会社がこのCHKSを取り入れたことでいち早く反応したのが、東京都立王子特別支援学校です。時代の流れを鋭く感じ取り、学校のカリキュラムに取り入れました。この流れは、その後も広がり、今では東京都立東久留米特別支援学校、東京都立板橋特別支援学校などの他、筑波大学付属大塚特別支援学校中等部・高等部においても導入されています。
このように、企業やそこに送り出す側の特別支援学校にも普及が進んできた2016年9月、満を持して一般社団法人チャレンジドハウスキーピング協会(代表理事 足立友秀 https://chk.or.jp/ )が発足し、導入している企業や学校、福祉施設等への情報提供や技術指導などを積極的に行うようになってきました。導入を検討している企業等に対しても説明会や勉強会を開催するなど、普及啓蒙にも力を入れています。

