トップ > 早慶・難関国立 合格の流儀> 夏の課題図書
夏だ。夏は何か成し遂げないといけない気がする。
何か強烈な体験をしておきたい衝動が募る。
僕はその衝動にかられて高1の夏に突発的に
自転車で日本横断したことがあるのだが、それはまた別の話。
今回は、文化系の夏にふさわしい読書体験の勧めをしたい。
長い夏休みには長い物語がいい。
かつ受験にも役立っちゃう超面白い傑作があるのだ。
まずは漫画だ。
大学のサークルで同級生に山本充というやつがいて
彼が目を付ける本はいつも確実に面白く、
僕はひそかに正解くんと呼んでいたのだが、
その山本が当時爛(ただ)れた生活をしていた僕に
「これはお前だ。読め」といって差し出したのが、
『「坊ちゃん」の時代』の第3巻であった。
石川啄木が主役の巻なのだが、匂い立つほどの生々しい描写に
一気に僕は明治時代に引きずり込まれた。
以来、僕の前世は石川啄木であったと信じてやまないのだが、
それくらい日露戦争前後の明治の空気、近代の気分というものが体感できる。
「日本史」「世界史」だけでなく
「現代文」でも「近代」という概念の理解は必須なのだが、
百聞は一見に如かずで、
この漫画が君に「近代体験」、「歴史感覚」というものを
もたらしてくれるだろう。
第1巻は「夏目漱石」、第2巻が「森鴎外」、第4巻には「大逆事件」が
中心に描かれていて全5巻の大作である。
ちなみに山本充は卒業後、青土社に入り今は「ユリイカ」の編集長をしている。
さすが学生時分から目が利いたわけだ。
後に『「坊ちゃん」の時代』は第1回手塚治虫文化賞の大賞を獲った。
原作者の関川夏央に興味を持ったらまずは
「二葉亭四迷の明治四十一年」を読んでみるといいかもしれない。
硬質な文体(漢文調の残り香があるby水村美苗)が
頗(すこぶ)るかっこいい。
次も漫画だ。
これこそ超大作で何しろ1979年から連載開始して
今なお続いているのである。
僕が知ったのは10年ほど前で、
紹介してくれたのはお茶ゼミで日本史を教えている貝塚先生だ。
作品名を『風雲児たち』という。
大河ドラマでも定番の、人気ある時代の2トップは「戦国時代」と「幕末」だろうが、
「戦国時代」の延長線上に「幕末」があるという
当たり前のことをまざまざと痛感できる傑作である。
300年間を辿るのだから連載も30年間を越えるのは
むしろ必然だとも思えてくる。
先の『「坊ちゃん」の時代』と併せて読めば
「戦国時代」から「明治」の終焉まで巡ることができるのだから
なんと贅沢な一夏の体験のことか!
ちなみにこの作品も手塚治虫文化賞の特別賞を受賞していて、
やはり手塚賞は見識があると思う。
最後は漫画ではなく、井上靖の「しろばんば」「夏草冬涛」「北の海」の
三部作である。
「しろばんば」は中学入試でもよく取り上げられ
映画化もされているから有名だけど、
続編があることは意外と知られていないのではないか。
僕も小学生の時に「しろばんば」を読んでいたが、
残りの2作は浪人時に読んだ。
この小説の裏テーマは「受験」ともいえて、
「しろばんば」は中学受験、「北の海」では浪人時代を描いている。
中でも「北の海」は当時の僕を本当に励ましてくれた。
何度も読んだ。大正時代も今と同じように受験は大変だったし、
先の見えない日々をみんな過ごしてきたんだと思うことで
孤独だった僕の正気は保たれたのかもしれない。とにかく救われた。
あ、今気づいたんだけど、この三部作はほぼ大正時代の15年間と
期を一にしていて、ということは、
『風雲児たち』から『北の海』まで読んだら
16世紀後半から20世紀前半、戦国時代から大正時代、
戦国武将から洪作少年までが地続きでつながるのか!
自分で選んでおきながら今気づいた。すごいな。
DNAの物語化だ。何回分の輪廻転生が味わえるのだろう。
デカルトは読書を旅に喩えたが、いやはや、
つくづく本というのはなんて凄まじい知の愉楽をもたらしてくれるものであるか。
あ、今、昭和初期を扱った逸品を思い出した!
タイトルは『マイナス・ゼロ』といって……うー。
これじゃ夏が何回あっても足りないな。
KEY:[秋元・国語・現代文・近代・入試・大学]
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2010年07月20日 | 現代文